被告準備書面5 後半

第2 原告の主張について

1 原告の人格権としての民族教育実施権について
被告らは、原告が法人であり、他の営利ないし非営利法人と同じくその定款に定められた事業目的に向けた活動に向けた活動をする権利を有しており、第3者からの業務妨害や名誉ないし信用毀損に対しては、刑事民事の保護があることを否定するものではない。それは他の法人と同様に法人の経済的活動の自由なし幸福追及権に基づく利益として保護されれば足り、とりたてて「人格権としての民族教育実施権」という新奇な概念を立てる必要はない。例えば医師ないし医療法人は、国民の生命、身体の安全に不可欠な存在であり、弁護士ないし弁護士法人は、国民の裁判を受ける権利を保障に寄与する存在であるが、医師や弁護士に対する業務妨害による侵害利益を、わざわざ「生命身体保護実施権」だとか「裁判を受ける権利実施権」だといわないのと同じである。
言うまでもないが、被告らは在日韓国朝鮮人の児童が母国語による自国の歴史や文化に則した教育(民族教育)を受ける自由を有していることを否定するものでもない。
しかしながら、被告在特会らは、原告には、市が開設している児童公園を法令に違反して不法に占拠する「特権」ではなく、原告が拉致事件等の違法行為に関与してきたとされる朝鮮総連との関係を不鮮明なままにしている以上、高校の無料化の「恩恵」に与かるべきではないと主張しているのである。そして、被告在特会らによる抗議を受けても児童公園の不法占拠を続けていた原告に対して、それが差別を理由とする逆差別であり、日本国民より在日朝鮮人を優遇する「在日特権」であり、それを曖昧なまま容認すべきではないと主張したのである。
医師や弁護士が国民の重要な権利の確保に寄与しているとしても、法を犯す特権を賦与されているわけではなく、違法行為があれば、市民から糾弾や非難を浴びることを甘受しなければならないとのと同じである。

2 被告らによる侵害行為の内容について
原告は、被告らによる侵害行為を大きく3つに分類し、①多人数による原告方に赴き拡声器を用いるなどして街宣活動・デモ活動を行うこと、② ①の際、「ヘイトスピーチ」含む名誉棄損、侮辱的発言を行うこと、③ ①②の撮影動画を動画投稿サイトにアップロードすることであるとしている。
①であれば、「民族教育実施権」を持ち出すまでもなく、業務妨害不法行為が成立しうる。
したがって、ここでの論点は、仮に、被告在特会らの行為が、原告の授業等の事業を妨害し。一定の損害を蒙らせたとしても、❶それが児童公園の不法占拠という原告の違法行為を糾弾し、児童公園を住民に取り戻すという正当な目的に基づくものであれば、正当防衛ないし正当行為として違法を阻却されるのではないか、或いは、❷被告在特会らの行為は、原告による児童公園の不法占拠という違法行為によって惹起されたという経過からみて、過失相殺の適用があるのではないかというものになる。
②は、まさしく被告在特会らの表現内容を問題とするものであるが、被害法益としては、端的に被告在特会らの言動によって原告の名誉、信用を毀損したかどうかを問えばよく、わざわざ「民族教育実施権」を持ち出したり、法人の自尊感情や自己肯定感に言及する必要はないし、誹謗的表現が名誉や信用の侵害になりうることは認めうるとしても、「民族教育実施権」の侵害になるとの因果関係が疑わしい(なお、原告が直面している「民族教育実施権」なるものの窮状は、被告在特会による表現行為ではなく、北朝鮮による延坪島砲撃事件をきっかけに高校無償化適用に向けた手続きが「停止」され、北朝鮮朝鮮総連との結びつきに対する市民の不審ないし疑念が原因であることは明らかである)。
また、原告は、ヘイトスピーチという概念を持ち出して、在日朝鮮人という集団に対する名誉棄損をいうようであるが、我が国の裁判所は、集団に対する名誉棄損も、人格権に基づく名誉棄損感情についても、これを認めていない(例えば、いわゆる「都知事ババア発言訴訟」に係わる東京地裁平成17年2月24日判決及びその判例評釈を参照にされたい。学説も消極説が支配的である。
③は、そもそも本件街宣活動の現場を撮影し、動画サイトに投稿することが、不法行為を構成するのか頗る疑問である。けだし、被告ブレノは撮影した現場画像をそのまま動画サイトに投稿しており、そこにテロップをつけて脚色することをしていないし、原告側支援者も本件集会や街宣行為を対象とした画像を多数アップしているからである。そして、動画の投稿が違法になるというためには、少なくとも、動画の内容自体が名誉棄損等を構成するものでならなければならないが、集団に対する誹謗、差別的表現ないしヘイトスピーチは違法とならないと解されるのであるから、主張自体失当ということになる。

3 ヘイトスピーチについて
ヘイトスピーチに関する原告の主張については、次回期日において乙号14号証ないし乙号18号証の論文に基づいて反論を行う予定であり、併せて、原告が問題としている被告らの各言動についてそれぞれ個別の違法性等について論じる。なお、原告は被告在特会らによる表現について真実性の証明はありえないというが、その多くは、事実に基づく「公正な論評」である。

4 事前抑制について
原告は本件請求が広義の事前抑制に該当することを認めながらも、最高裁北方ジャーナル事件判決が定めた事前抑制の例外的要件を不要だとするが、これが失当であることは明白である。原告が差止めを求めているビラ等の表現内容は「原告を非難、誹謗中傷する内容の文言」という極めて曖昧かつ包括的なものであり、勧進橋児童公園の不法占拠を糾弾する内容のものも高校無償化制度適用反対の趣旨のものを全て対象になる。北方ジャーナル事件において差止請求の対象になっていた表現内容が特定の記事であったことからすれば、それが未だに公表されていない内容のものも含むことは明らかであろう。要するに一切の批判的活動を封じるというのが原告の目的であるというほかない。

5 本件学校の認可に関する点
被告在特会らは、正しくは、「原告が設置している朝鮮第一初級学校は教育基本法及び学校教育法に基づく学校」ではないと主張しているのである。学校教育法1条で「学校」を定義しており、教育基本法及び学校教育法に基づく学校とはこれを指す。各種学校は、法制上あくまで「学校」とは区別されたものであり、学習指導要領や教科書検定による規制の対象外となっている。「朝鮮学校は学校ではありません。」は、規範的事実に基づく「公正な論評」であり、原告が展開する主張ないし反論は、対抗言論で行うべき類のものである。

6 教科書や朝鮮総連への言及について
被告ら準備書面(1)における指摘部分の主張は、原告の民族教育実施権の危機といった「損害論」の文脈に対するものであり、争点と密接に関連する。
更に、原告が問題としている被告在特会らの言論の多くは、北朝鮮の政治状況や歴史解釈にも多分にコミットしており、原告との関係が問題とされている朝鮮総連北朝鮮(同政府が拉致事件や砲撃事件を起こしたことは明白な事実である。)との密接な関係を非難するものである。言論による名誉棄損等が問題とされている本件において、それが公共の事柄に関する「公正な論評」であって違法なものではないという主張とも密接に関連するものである。
原告は「朝鮮総連による不正送金や拉致事件への関与」「朝鮮学校における秘密工作員養成」といった主張や論法が、人種差別攻撃の主張であってこれを封殺しようとするが、ここにおいて、まさしくヘイトスピーチ規制に反対する多くの識者、学者の懸念が具現しているのをみてとることができる(差別的表現の規制に積極的な姿勢を示していた内野教授によっても、差別的表現反対運動は、自己の主張を正当なものとして社会に押しつける不寛容なものである、との非難を浴びることが多いことを指摘している)
原告は上記主張が不当であって誤っているというのであれば、弁論で反論すればよいのである。ここは対抗言論の機会が完全に保障されている民事訴訟の場であることを弁えるべきである。
以上


後半は原告が出してきた書面に対する反論である。
1の「人格権としての民族教育権について」は、一見さも論理的に現行法内での解決方法があるかのように述べている。確かに今回の民事訴訟のその権利の駆使である。
しかし、被告側は自分達が行った朝鮮学校に対する乱暴狼藉、ヘイトスピーチ活動を忘却でもしたのだろうか。例えば、日本の学校が公共の施設である公園を使用していたらこのような事件は起こりえただろうか。公立の学校が公園使用をしている事例はいくらでもある。さらに公園に備品を置く事もある。実際、筆者は身内が通っていた中学のクラブの備品が隣の公営のグランドに置きっぱなしされているのを何回も目撃している。しかし、それはなんの問題にもなっていないし、問題があれば話し合いすればいいだけの話ですんでいる。では、被告らが騒乱を起こした理由はなんなのか?
一度、今回の事件の首謀者の一人である西村斉氏に人証で聞いてほしい。彼なら堂々と主張してくれるだろう。「朝鮮学校」であったからだと。彼は被告らの活動映像の中で何回となくこの言葉を述べている。また、これらは被告側書面においても何回も繰り返し、朝鮮学校の公園使用は「領土問題」だと自ら白状しているではないか。明らかに、事件を引き起こした被告らの活動は「朝鮮学校」だからに起因しているのだ。
これは、とりもなおさず被告らの行動が「朝鮮学校」を脅かしている事に他ならない。さらに「朝鮮学校」と「民族教育」が切り離されるわけがないのは自明であり、だから、現行法に求めきれない民族教育権を訴えており、それは何ら不合理なものではない、被告自ら暴露するように正当な要求である。
さらに、もうね、いい加減に「不法に占拠する『特権』」とか「拉致事件の違法行為」とかイメージではなく証拠をだしてほしい。被告側は自らの言い分が矛盾に満ちている事にそろそろ気がついてはどうだろうか。

2の「被告らによる侵害行為の内容について」は、少し笑ってしまった。
まず、身勝手な論点整理というのはこのさいおいたとしても、被告側の前提として「児童公園の不法占拠がありそれを取り戻す正当な行為」というものがある。その上で「正当防衛ないし正当行為として違法を阻却されるのではないか」「過失相殺の適用があるのではないか」となんとも希望的観測というかなんとも自信なさげな書面ではないか。
既にこれは刑事裁判判決で破綻したものである事は言うまでもない。とりあえず言ってみましたというとこか。
次に、「誹謗的表現が名誉や信用の侵害になりうることは認めうるとしても、『民族教育実施権」の侵害になるとの因果関係が疑わしい」とあるが、被告側はさっき民族教育権を「新奇な概念」と切り捨てたじゃない。その概念を認めないでなんで因果関係を理解できるのだろうか? 更に「北朝鮮」を持ち出してのイメージはもういいから証拠を出してほしい。
そして「都知事ババァ発言訴訟」(これも大概な訴訟名だな)を持ち出して、集団に対する名誉棄損の消極説を訴えているが、徳永弁護士は一度、徳永弁護士が属する属種で存在そのものを否定されるような罵倒を目の前で繰り返し浴びせられたらどう思うだろうか。また、ネット内においてもごまんと悪意に満ちた文言が並ぶものも想像してほしい。先の口頭弁論において名誉棄損の指摘を受けて興奮された身ならば想像もできると思うのだが。
無論、被告側弁護という立場において、法に則り真摯に弁論をされていると思うが、少なくともヘイトスピーチの概念については理解し集団に対する名誉棄損の積極性についてご理解願えると思うのだが。いかがだろう。
とまれ、3で書いてあるが、次回ヘイトスピーチについて反論を行われるようなので、それを心待ちにしたい。
4の「事前抑制については」と5の「本件学校の認可」及び6の「教科書うんぬん」はなんかいろいろいってるが、この書面のおかしなとこは、被告らの12月4日の襲撃及び以降2回のデモで、何が叫ばれたかについて都合のいい抽出を具体性もなく行っている点である。
ここらは朝鮮学校側第一準備書面
「2 原告及び本件学校の名誉・社会的評価が毀損されたこと」を見てほしい。
http://d.hatena.ne.jp/arama000/20110521/1305938151
ここらは被告らにとって都合の悪いヘイトスピーチそのものである。これらはとても「公正な論評」と呼べる代物ではないという事は明白である。しかしそれでもなお、公正な論評というならせめて事実にそった主張であるという証拠を提示してほしい。それもなしに「批判的政治活動を封じる」とはどの口がいうのだろう。

しかし、まあ、被告側のこの書面は最初から最後まで自己都合に満ち溢れている。
彼らのロジックは「朝鮮学校は50年に渡る占拠に抗議、領土奪還しただけ」「我々のいうことは公正な論評」「批判的政治活動の封じ込めだ」「在日は特権をもち優遇されている」という破綻し、証拠もない「妄想」といえるものだ。
そしてそれでも徳永弁護士は、これは将来にわたっても「少数意見だけど保護」してねだとさ。
自分を守るために人はこうまで傲慢になれるものだろうか。空いた口がふさがらない。




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