M氏裁判 被告側答弁書

以下、紹介するのは原告の訴状に対する、被告C、Dの答弁書である。
訴状と答弁書は対の関係にあり、訴状の項目そのままを答弁書において反論している。この答弁書は、当日現場で何が起こったのかが詳細に語られており、証拠物としてM氏による事件の録音とその書きおこし、後の聞き取り調査記録等を提出している。






答弁書
被告C、D

第1 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。


第2 請求の原因に対する答弁
1 「一事件」について
 被告Dが原告に暴行を加えることがなかった点を除き、全て否認または不知。
被告らが原告に暴行を加える旨を共謀したことはない。被告A、被告Bが原告に電話して本件店舗に呼び出したこともない。
被告Cが原告の顔面を殴打したこともない。原告が本件店舗内に1時間以上留め置かれたこともない。被告Dが被告Eとともに原告を威圧したこともなく、暴行を幇助したこともない。
その余りは不知。

2「二 事件後の経過」について
平成27年1月19日、被告Aらの代理人弁護士が原告に対して、補償した旨の申し入れをしたこと、被告らが「Cさんの裁判を支援する会」など、外国人差別の解消に向けた各種活動を広く展開する者であること、被告Cが事件後しばらく活動を自粛する旨を申し入れたこと、被告Cが2015年4月8日以降に活動を再開したことを認め、その余を否認する。

3 「損害」について
争う。

4 「四」について
争う。


第3 被告D、Cの主張
1 本件の背景
⑴ 被告らはいずれも在日朝鮮人・韓国人に対する所謂ヘイトスピーチ(差別扇動的表現に
反対する、所謂「カウンター運動」に参加している者である。
ヘイトスピーチとは「朝鮮人をぶっ殺せ!」「ゴキブリ朝鮮人!」等と主に「在日朝鮮・韓国人に対しての差別や加害を煽る言動等であり、在特会在日特権を許さない市民の会)が引き起こした京都朝鮮学校襲撃事件(2009年)等を契機に社会的に認知されたものである。「
ヘイトスピーチとは「朝鮮人をぶっ殺せ! 」「ゴキブリ朝鮮人! 」等と主に在日朝鮮・韓国人対しての差別や加害を煽る言動等であり、在特会在日特権を許さない市民の会)が引き起こした京都朝鮮学校襲撃事件(2009年)等を契機に社会的に認知されたものである。 「カウンター運動」とは、このようなヘイトスピーチ及びへイトスピーチを黙認する社会に対して、反対のプラカードを掲げる等して抗議する活動をいう 。
被告Cはこのようなヘイトスピーチを行うことを主目的とする運動団体である上記在特会の元会長・ 桜井誠在特会の宣伝媒体としても利用されているインターネット掲示板まとめサイト「保守速報」に対する裁判の原告であり、その余の被告らは、同裁判の支援者である。
なお、原告もカウンター還動に参加したことがあり、被告Eとともに、カウンター運動団体の1つである「男組」に所属していた。
(2)2014年12月頃、原告は、被告Aがヘイトスピーチを行っている団体の関係者から金銭を受け取っているとの話(以下、「本件噂話」という)を、カウンター関係者に話した。 原告が被告Aにかけた疑惑を端に本件噂話は、関係者の間で噂として広がっていった。
本件噂話は、カウンター運動に参加し活動している被告Aが当のへイトスピーチを行っている者から金銭を受け取っているという内容であるところ、まったく事実無根であり根も葉もないものであるうえに、被告Aの人格や人間性を全面的に否定すると共に、在日朝鮮・ 韓国人への差別と偏見すら呼びかねない極めて悪質かつ卑劣なものであると、カウンター運動関係者には受け取られた。
そこで、原告は本件噂話の発信元となったことを理由にカウンター運動関係者からの信用を失い、先述「男組」からも脱退することとなった。
(3) 本件事件が発生した2014年12月16日、被告らは同日行われていた「保守速報」を相手方とする裁判期日とその報告集会に参加し、その夜は居酒屋等で懇親会を行っていた。
懇親会の最中、午後10時37分に原告から被告Bの携帯電話に着信があった。被告Bが何度か折り返すと、翌17日午前0時43分に電話がなり「被告Aと被告Bに(本件噂話について)謝罪したい」という趣旨であることが分かった。そこで、他のメンバーの同意も得て、 報談会の席に原告を呼ぶ事となり、被告Bが原告を迎えに行くことになった。
その後の状況は、原告が密かに録音した音声データにより明らかであり、以下の記述は全てこれに基づいている。



2本件暴行事件 (1) 同日午前2時頃、原告と被告Bは本件店舗に到着した。すると、原告が本件噂話を流布したことに反発していた被告Cが「なんやの、お前」等と原告に詰め寄ったが、「まあまあまあ、まあCさん」「チョゴリチョゴリ汚れちゃうんで、チョゴリ汚れちゃうんでちょっと」等と被告Bや被告Eらが制止し、2人はすぐに引き離された。
(2) カウンターの中程の席に座っていた被告Dが、「何どうしたの、もう」と原告に声をかけると、被告Dの後ろを通って店の奥へ行く途中の原告が「すいません」等というので、被告Dは「すいませんじゃなくって、 もうAさんとちゃんとしっかり話したほうがいいよ」と発言し、原告と被告Aが話し合って解決するよう促した。
原告と被告A、Bは本件店舗内の奥の席に着いた。被告Dと被告Eはカウンター中程の席に着き、被告Cは原告から最も違い、入口近くの席に座った。被告Bは、「そうしたら、僕、生で」「M、生でいいか。生ビール1本お願いします」等と原告に酒を勧めた。
被告Aは、原告に対し、「で、どうした。(何を)言いたい。 言い分を(言え 」と詰めより、「俺があのブログでカウンター、銭受け取ったカウンターが俺か。俺が受け取ったんか。 つじつまが合うと。俺があれ、銭とった」と、原告が流した本件噂話を否定し、激しく怒りを発した。少し離れて座っていた被告Dは、被告Aをなだめる意味もあって、「Mさんがそういうふうに、Aさんがもらってるって思う理由が全然分からないんだよね。 なんか、その、そういうふうに思うような、なんかほかの情報とか誰かに何か言われたとかっていうのがあるならまだしも、だってあらゆるカウンターの中でAさんにそんなこと思うってあり得ないんじゃない。一番遠いところにいる人だから。一番遠い人なのに、なんでそういうふうに」 と原告を穏やかに諭した。
被告Bは、「Aさんがな、どんなつもりで、お前、カウンター来てると思ってんねん、お前。 お前何で俺にそんなこと言うてん」「お前、絶対許せへん、お前さ」と、差別に苦しむ在日朝鮮人が、どれほど苦しい思いでカウンター運動に参加しているかを、日本人である原告に涙ながらに伝えて理解を訴えた。当事者が興奮していることに気付いた被告Dが「絶対手ださないで」と注意すると、被告Bは「絶対手出さへん。 言わして、言わして。お前な、言わして、お前な。」と応じている。原告から最も離れた席についた被告Cは、これらの会話に加わらず「Dさん何飲む? 」と被告Dに尋ね、被告Dは、「紅茶がいいな」と応じている)。
(3)やがて、被告Aが激高し、「いや、疑ったことがって、どういうことやねん。 何やねん。なんか悪うないんかい、こら」と言いながら、原告の頬を叩いた。 被告Bは「やめてください。やめてください。やめてください。」と言いながら、慌てて被告Aを止めた。
物音を聞いた被告Eは「あのう、もめるんだったら外で、外でやって」と言った。被告Dは、被告Aが原告の頬を叩いた事には気付かなかったものの、物音を聞き、原告と被告Aが立ち上がって揉み合いをするのを見て騒ぎになると思い、「2人で外行ったほうがいいんじゃない」と、本件店舗外で二人による話しあいを促した。 また、本件店舗のマスターも「それはつぶしたらあかんで」「それはええやつやから」と店の什器が壊れることを心配したため、被告Eは再び「外で、外で」と言い、被告Dも 「そもそも2人で話すって言ったんだから、ここにいないで、2人で外に出て話せばいいじゃない」と本件店舗外で.2人で話すようさらに促した。被告Bも「表出て」と二人を促し、「ごめんなさい、マスター、すいませんでした」店主に謝罪した。
被告Dは「いや、2人で話してきて」と重ねて本件店舗外で話し合って解決するよう求め、被告Aは「マスター、すいませんでした」と言って店外に出た。
この間、被告Cは、原告から最も離れた席にいたため、やりとりの詳細を知らず、被告Aの怒っているような声を聞いただけだった。
(4) 原告と被告Aが本件店舗外に出て、被告Aが原告を何度か殴りつけた。この時点では、被告D、被告Cは、店外で被告Aが原告を殴っていることに全く気付かなかった。
被告Bは途中で店外に出て「僕のことはいい。 僕のことはいい」「ちょっと一回、ちょっと」「ちょっとはけろ。 ちょっとはけろ」等と言いながら被告Aを止め、原告に対し、店内に入るよう促した。
1人で本件店舗内に戻ってきた原告に対して、被告Dは、「(被告Aとの)話終わった? 」 と尋ねた。これに原告は「外でBさんが話してます」 と応じた。
被告Cは、原告を気遣い、「まあ殺されるなら(喧嘩になるなら) 入ったらいいんちゃう」 と店内に入るよう促した。 他方、被告Dは当事者同士で語し合って解決すべきだと考えて 「まあでも、話終わってないなら行ったほうがいいんじゃない?」と、さらに2人だけで外に出て話し合うよう促したため、原告は再び店外に出た。
原告が本件店舗内に一旦戻ったとき、原告は、被告Cや被告Dに助けを求める発言をしていない。被告Cは、原告が被告Aに殴られていることに全く気付かなかった。 被告Dは、原告の様子等から1発くらい殴られたのかもしれないな」と思ったものの、2人で話し合えば仲直りできるし、そうするべきだと思っていたので、当事者同士の解決に委ねたのである。
(5) 被告Dは、店を出る際には原告の姿を見ておらず、結局本件事件に気付かないまま、深夜3時頃にはホテルに戻った。
被告Cが店を出た際には、原告と被告Aは座って話をしており、被告Cもまた、本件事件に気付かず帰宅している 。


3 被告らに不法行為が成立しないこと
(1) 被告らに暴行の共謀がないこと
2に記載した当日のやりとりからも、被告らの間に暴行の共謀がなかったことは明らかである。
すなわち、被告らは被告Cを当事者とする裁判期日後の懇親会のために集まったに過ぎず、原告は被告Aに対して自己の流布した虚偽の噂について釈明するために姿を見せたに過ぎない。
被告Dは、「すいませんじゃなくって、 もうAさんとちゃんとしっかり話したほうがいいよ」と発言し、原告と被告Aが語し合って解決するよう促している。当事者が興奮していることに気付いた被告Dが「絶対、手をださないで」と注意すると、被告Bは「絶対手出さへん。 言わして、言わして」と言いながら被告Aを止めているし、物音を聞いた被告Eは「あのう、もめるんだったら外で、外でやって」と言い、被告Dも、物音を聞いて騒ぎになると思い、「2人で外行ったほうがいいんじゃない」「そもそも2人で話すって言ったんだから、ここにいないで、2人で外に出て話せばいいじゃない」と外で二人に話すようさらに促している。
これらのやりとりから、被告Aを除いた被告らは、原告が流布した本件噂話について、本件噂話の被害者である被告Aと原告とが話し合って解決するよう求めていた事が明らかであって、被告らの間に暴行の共謀は存在しなかった。
なお、原告代理人のT弁護士も、「B氏がM氏(原告)を呼び出した際、B氏がこのような『リンチ事件』の発生を予見していたかどうか分かりません」と述べており、被告らの間に事前の共謀がなかったことを認めている。
(2) 被告Cに不法行為が成立しないこと
原告は、店に入った際に被告Cが 「問答無用で右手拳で原告の顔面を殴打した」と主張する。
しかし、前記のとおり、被告Cは「なんやのお前」等と原告に詰め寄ったが、「まあまあまあ、まあCさん」「チョゴリチョゴリ汚れちゃうんで、チョゴリ污れちゃうんでちょっと」等と被告Bや被告Eらに制止され、すぐに引き離されている。
この点、事件直後の2014年12月22日に「コリアNGOセンター」が行った聞き取りにおいて、原告は、「行ったら、まあ、まず最初にCさんに胸ぐらを捕まれて、で、それでEさんが止めて、で、カウンターだけのバーだったんですけれども、奥のほうに通されました。 で、僕を挟んで、BとAさんが座って、で、まあいろいろ話をしていて」と供述するだけで「顔面を殴られた」とは供述していない。(現場録音テープにも殴られた音は入っておらず(被告Aによる暴行の音は鮮明に記録されている)、客観的証拠からも、「顔面を殴られた」事実が存在しないことが明瞭である。原告本人が供述しておらず、客観的証拠にも整合しない「顔面を殴られた」事実を認定することは到底許されない。
よって、被告Cが原告に暴行を加えた事実はないから、同被告に不法行為は成立しない。
(3) 被告Dに不法行為が成立しないことこれまで述べた経緯から明らかであるとおり、被告Dは一貫して問題を当事者間で話し合って解決するように求めただけである。 被告Aの原告に対する暴行は、店外で行われており、店内で酒を飲んでいたに過ぎない被告Dが、「原告を威圧した」「暴行を幇助した」という事実はあり得ない。
(4) 小括
よって、被告D、被告Cは、原告に対して、如何なる法的責任も負わない。


4 事件後の状況について
(1)2015年1月19日、被告Aから受任を受け、被告C、被告Bの意向も受けた代理人弁護士が、原告の当時の代理人である弁護士に、補償交渉のための連絡をした。
(2)2015年1月27日、上記代理人弁護士は、原告代理人弁護士に被告らの反省文を送付した。 また、同年同月29日、被告代理人は原告代理人に宛て「告訴状提出を経た後で構いませんので、改めて、直接の謝罪の機会の実現にご尽力を頂けないでしょうか」等とするFAXを送付した。
さらに、被告代理人は、同年1月30日には日程調整の連絡文書も送付している。
被告Cもこの間、2015年2月3日付で、本件事件を気づかないままであったこと等に関する道義的責任を原告に対して謝罪する詫び状を書き、関係者を介して原告に交付している。
(3)刑事告訴がなされた後の2015年2月24日、被告代理人は、被害弁償金として金100万円が用意できた旨の文書を原告代理人に送付した。原告代理人は、「申し出の件については、本人とも十分に話し合ってお返事したいと思います」と返答した。
(4)2015年4月8日、「Cさんの裁判を支援する会」は、原告代理人に対し、「このまま自粛を続けている事は裁判支援を行っていくうえで支障が大きいと判断し、Cさんに最低限の活動を再開していただきたいと考えています」等とする文書を送付した。
(5)2015年6月17日、原告代理人は、被告らの活動再開を遺憾とする原告作成の平成27年6月15日付文書を原告代理人に送付した。
被告代理人は、これに対し「ヘイトスピーチに晒された被害当事者の心情としてご容赦願いますようMさんにお伝え下さい」等とする文書を原告代理人に送付した。
(6)2016年2月1日、被告代理人は、原告代理人に対し「ご指示頂ければ送金可能な100万円を先にご受領頂くようご検討願えませんでしょうかとする文書を送付した。
(7)2016年3月1日、被告A及び被告Bに対し、略式罰金の刑事処分が確定した。 被告Cは嫌疑なしの不起訴処分となった。
(8)2016年5月12日から14日にかけて、T弁護士(現在の原告代理人であるが、この時点では当時の被告代理人に受任通知を提出していない)が、現場録普テープの書き起こしや代理人間のやりとり等の資料をインターネット上に公開した。
(9)2016年5月16日、当時の被告代理人は、当時の原告代理人に対し、前項(8)の事態について l先生はこのような状況をご存じでしょうか。 是非とも事実確認をいただき、M氏に対して適切な指導と管理をお願いしたいです。 ネット上において不正確な情報が独り歩きしており、解決からかけ離れていく格好ですと抗議するとともに、被告Cについて「原告の気持ちを慮らず、配慮の欠けた対応があったことについて、謝罪し真摯に反省する」という道義的實任を認める条項を含む示談書案を提示した。
(10)2016年5月17日、当時の原告代理人より当時の被告代理人に宛てて、被告訴人3名について、検察官の処分結果が示され、これをもって通知人の代理人としての職務は終了しましたので、御連絡させていただきます」との文書が送付された。
(11) 以上のとおり、被告らは誠実に示談交渉を行っており、その交渉過程に何の瑕庇もない。むしろ、交渉中であるにも関わらず、突如、別の弁護士を通じて裁判の証拠等をインターネット上に公開した原告の行動こそが「解決からかけ離れていく格好」を作った原因であるという他ない。

第4 結論
以上述べたところで、被告D、被告Cがなんら不法行為貢任を負わないことは証拠上明白であり、早急に弁論を分離し、棄却判決を下すことを求める。
以上。

M氏裁判 初めにと訴状

この裁判は、M氏に対しA氏が暴行を行った事により事件化され、それによりM氏がその現場および現場近くにいた人々を訴えた事件である。
そして裁判の被告も原告もレイシズムに反対する所謂「カウンター」と呼ばれる人らの裁判となった事もあり、それをカウンターへの攻撃よろしく、数々の事実の歪曲、誹謗へと繋がり事実からかけ離れた喧伝がなされている。筆者は、この裁判の書面を通じ事実を明らかにする必要を感じた。

本来ならば、この事件を世に訴えようとする原告側がこのような作業を行ってほしいし、原告の支援者らの中にもオープンで良いとの意見もあるようなので、是非、今後は裁判書面を明らかにしてもらえれば、筆者は楽になるのでお願いしたいところだ。

なお、この裁判呼称については、ネトウヨとされる人々が「十三ベース事件」「リンチ事件」としているが、それは事実からかけ離れたものである。例えば場所違いは論外だが、「リンチ」という言葉が「私的制裁」とするならば「個人的制裁としての暴力」はあった。ただし社会的に「リンチ」と言えば「集団暴行」のイメージとして捉えられており、まさにこの事件を利用し現場近くにいて被告とされた人々、さらにはカウンターを落としこめるために意図的に使用された呼称と言えよう。よって原告側も「M君の裁判」と呼称し支援活動を行っている事から、当ブログも「M氏裁判」とする事にした。





では、最初に原告側が何を訴えているのかを紹介する。
登場人物については、当ブログは、今後、以下の表記とする。
原告M氏
被告A氏、B氏、C氏、D氏、E氏。

また、原告訴状紹介の後、被告側答弁書を紹介するが、それらは一語一句そのままではない。ただし意は間違っていないと思う。




原告側訴状

請求の趣旨

請求額 1106万2530円。
訴訟費用を被告らの負担とする判決並びに仮執行を求める。



請求の原因
被告らはかねてより原告に暴行を加える旨を共謀し、平成26年12月17日に大阪市北区飲食店から、原告に電話「今から来る根性あるか」などと挑発、同所に呼び出す。
原告が本件店舗に着くや被告Cが右拳で原告の顔面を殴打。その後、原告は同所に留め置かれ、被告Aから一時間以上にわたる何十発もの殴打と罵倒を受けた。その間、被告Bも右平手で原告の顔面を殴打した。
被告D、Eは直接の暴行はなかったものの、その場から離れることなく、原告を威圧するとともに被告C、A、Bらの暴行を幇助した。

二 事件後の経過
本事件発生直後である同日午前10時頃、病院へ直行した原告に対し、なおも被告Aは電話で「お前、まだ言いたい事があるのか」など罵倒を続ける始末であった。
その後、被告らから誠意ある対応が見られなかったところ、平成27年1月19日、ようやく被告C、A,、Bらの代理人弁護士から補償をしたいとの申し入れがなされた。
被告A、B、Cらは「Cさんの裁判を支援する会」など、外国人差別の解消に向けた各種活動を広く展開する者であるが、平成27年2月9日ごろ、ようやく「かかる公的な活動に関連して本事件を起こしたことを深く反省し、活動をしばらく自粛する」と原告に伝え、示談による解決をしたい旨を申し入れてきた。
ところが平成27年8月29日以降、被告C、Bはかかる申し入れを守ることなく、原告に何ら説明することもなく、以前と同様の活動を展開し、逆に原告を誹謗中傷し続ける有様であった。

三 損害
以下、通院治療費、障害慰謝料、後遺症慰謝料、弁護士費用の根拠が述べられている。

四 被告らに対して民法709条、719条1項2項による損害賠償請求に基づき、請求の趣旨記載の判決を求める。


訴状には甲号証として、各診断書5点および被告Cの手紙、「活動再開について」とする書面と原告の被害写真、被告代理人からのFAXが提出されている。

以上。

最高裁判決を受けて原告、弁護団のコメント

2010年9月に裁判がはじまった朝鮮学校嫌がらせ裁判の最高裁判決が今年度12月9日付けで出された。
被告在特会など側の上告却下である。これにより大阪高裁判決が確定した。

確定した判決は以下。
「薔薇、または陽だまりの猫」さんより。
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/7e81a3afc7dce2827aeda19a7be2553e

高裁判決を分かり易く解説したものは以下。
在特会らによる朝鮮学校に対する襲撃事件裁判を支援する会(こるむ)作成」
https://drive.google.com/folderview?id=0B60d_nhxt-QfajloR24wNEVHLUk&usp=sharing


さて、この高裁判決が出た後、9月12日付けで被告在特会など側から上告受理申立理由書及び上告理由書が出されていた。この上告書が出されたわずか三か月もないうちの最高裁判決というのは、単純に「言うまでもない」という事だったのだろう。
詳しくは長くなるので割愛するが、被告らの上告の理由は人種差別撤廃条約に関する憲法解釈と被告らの行いはあくまで「政治的主張」だとするもので、何を言わんかなというものだった。
この一連の朝鮮学校襲撃事件の映像を見るだけで、この事件がヘイトクライムそのものであり人種差別である事は一目瞭然ではないか。そして、こんな判りやすい事件で人種差別認定が出なければこれは司法の危機であり国家の危機だとさえ言える。
しかし、一方で、この当然すぎるほど当然な判決を求めるのに5年以上の月日がかかり、その間、加害者らがずっと被害当事者らを疲弊させ苦しめ続けている現状とは何だろうと怒りを覚える。



以下、判決を受けての原告らのコメント。

学校法人京都朝鮮学園
最高裁決定を受けてのコメント
2014.12.10
京都地裁司法記者クラブ報道機関 各位
このたび、最高裁決定により高裁判決が維持されたことについて、在日朝鮮人の民族教育の実践と、そこで学ぶ子どもたちの安全を守ろうとする日本司法の毅然とした態度の表れとして歓迎いたします。
在日朝鮮人の70 年に及ぼうとする民族教育の歴史において、今回の判決は極めて大きな意義があります。歴史をふり返りますと、日本の公権は、今まで私たちの民族教育権を否定し続け、民族学校を弾圧し続けてきました。それゆえ、地裁の審理に始まる今回の裁判手続で、公権の一翼を担う裁判官たちが、公平な立場から、民族教育の実践に関する膨大な証拠資料を検討し、法廷証言を通して父母や教員たちの強い思いに触れたこと、 さらには、慎重な審理を経た結論として、在日朝鮮人が民族教育を行う利益を正当なものと認め、日本の法の下で保護される対象と判断したことは、私たちにとってはもちろんのこと、日本社会の歴史の上でも画期的な一歩であると評価しております。これから、京都のみならず全国において、朝鮮学校を守り、発展させる運動において重要な足がかりとなることが期待されます。
2009 年12 月から今日まで、私たち当事者にとっては、司法手続に対する期待と不安が交差する5 年の長い時が過ぎました。本件の一番の被害者は、学ぶ権利が侵された子どもたちです。子どもたちの明るい笑顔を取り戻すために、私たちは努めてまいりました。
今日、日本のみならず世界各国において、社会に横行するヘイトクライムヘイトスピーチに警鐘を鳴らす運動が広がりを見せています。私たちは、今回の最高裁判断を契機に、日本全国の朝鮮学校に通う児童・生徒が、朝鮮人の民族的誇りを育み、また社会の一員としての自覚を持った人材として成長していく学習環境を守っていくため、今まで以上に努力していく所存です。
在日朝鮮人に対する差別や偏見が根強くある中、正しい裁きをしてくださった裁判官たちに謝意と敬意を表します。
また、この間、子どもたちにあたたかく寄り添い、私たちの運動を力強く支援してくださった多くの皆さんに、心から感謝いたします。
以上




京都朝鮮第一初級学校・威力業務妨害事件
2014.12.10
学校法人京都朝鮮学園弁護団コメント

今般、最高裁決定により判決が確定したことは、京都の学校のみならず、日本全国の朝鮮学校で、明るく元気に学んでいる子どもたちの安心につながる。大阪高裁判決は、単に差別街宣の悪質性を論じるのみならず、民族教育を受ける利益の重要性にも言及し、差別に屈せず民族教育の充実に尽力している教職員、父母、その他関係者のみなさんを勇気づけてきた。今般、最高裁においても高裁判決が維持され確定したことは、大きな社会的意義を有するものである。
約5年の長きにわたる司法手続のなかで、父母や教員など学校当事者が大きな犠牲を払って、ようやく獲得された司法判断であることを忘れてはならない。動画上映によって事件当時の絶望感を思いだし、自らの心の傷を証言する辛さを感じ、そして、法廷においてさえも無反省な被告らのヘイトスピーチに晒され続ける二次被害を受け続けながらも、民族教育を守る一心で団結し、覚悟と決意により勝ち取られた高裁判決であった。
他方で、司法作用が、ヘイト被害からの回復に向けてできることには限界がある。ヘイト街宣がますます拡散・蔓延しつつある昨今、被害者は日本社会に対する不信を拭えず日々の安全に大きな不安に晒されているといえる。一連の司法判断は日本社会の姿勢を示すという観点で大きな一歩ではあるものの、被害救済として未だ十分とはいえない。今回の最高裁決定を受け、日本社会がヘイト街宣や差別の問題についてどのように対峙していくのか、私たち一人一人の行動が問われる段階となろう。また、本件の民事判決が注目を集めた背景には、これに先立つ刑事司法において、際だった機能不全があったことを忘れてはならない。警察の対応が被害の長期化、深刻化を招いたことについて、改めて十分な検証が行われる必要がある。
なお、「表現の自由」論については、最高裁判所も、被告らの「政治的表現であった」などとする弁明に惑わされることなく、人種差別という本件行為の本質を見据えた地裁・高裁判決を維持したものであり、今後の同種ヘイト事案における審理にも先例として影響を与えていくものと評価する。
民族教育の実践への理解と、ヘイトクライム被害の深刻さへの理解は、民族的自尊心の保護というキーワードで共通し、コインの表裏の関係にある。京都地裁判決、大阪高裁判決については、人種差別撤廃条約の適用も含めて世論・報道機関の圧倒的支持を受け、法律学の論文においても堅実な評価を得てきたものであるが、今回、最高裁においてもこの判断が維持されたことを受け、民族教育の取り組みを発展させ、人種差別を許さない社会を作っていく取り組みを一層加速させる効果が期待される。
以上



被害当事者らが当時そして最近までどのような被害を受けて、そして何を訴えているのかは「ルポ、朝鮮学校襲撃事件」に書かれているので一読をお勧めする。

「ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件――〈ヘイトクライム〉に抗して」
http://urx2.nu/f75r



筆者がこの裁判で感じたのは、被告書面だけを読んだなら、それはそれは一見もっともらしく聞こえる言い訳の羅列だった。やれ政治的主張だ、やれ学校側に不始末があるから、やれ北朝鮮、総連だ。しかし、そんなものは全てデマであったり詭弁であったり自己都合であったり妄想であったり、当然のように裁判において何一つ認められていない。
被告らの言い分は、裁判と言う検証の場に出れば実に惨めなものであった。
ところが、驚くべき事にネットにおいてもリアルにおいても、加害者らはその事実を認めようとしていないのが現状である。彼らは止まらないのだ。そして被害当事者らはずっと傷ついている。
最高裁判決が出たとしても、この社会が被害当事者の痛みをなおざりにする限りこの国のヘイトクライムはなくなるどころか拡大していうとする予兆さえ感じる。

この判決が出る直前の12月7日京都にて、加害当事者(本裁判被告らも含む)らと呼べる人々が「勧進橋児童公園奪還行動5周年」なるデモが行われた。
警察は、司法による断罪を受けた事件の流れを組むこのヘイトクライムの蛮行をくい止める事はできなかった。そう、それは5年前の12月7日、小学校の校門前で犯罪行為を見ているだけの存在だった事を思い出す。
本判決の重要な点の一つは、こんなものは「表現の自由ではない」であり、あれは犯罪行為だと明確に述べている事だ。今後、これを行政、警察が現行法の犯罪として対処できなければ、ヘイトスピーチ規制法を生むしかない。

この最高裁判決の意義を生かすも殺すも、まさにこれからだ。

高裁判決傍聴記

7月8日、朝鮮学校嫌がらせ裁判を傍聴してきました。
本日は高裁判決が出る日という事もあり、裁判所正面入口には学校支援者200人程がおりました。
裁判所の指定により裁判所西入口より入場の在特会側は周辺も含めて約30名程であったと報告があった。在特会自称桜井会長は50名とか言っているが、さば読みですよといっときたい。
今回の法廷である202号法廷の席数からしたら約2倍の競争率であったが、なんとかもぐりこみ、席に陣取る。
在特会側とされる席を見ると6名がおり、何故かその席の後ろは公安が4名が座る。記者が10名ほどで、あと残りはほとんどが学校支援者と思われる。
法廷風景は、学校弁護団らが何時ものように10名ほど、在特会等側は何時もの八木氏と徳永弁護士以外にこの日、在特会会長の自称桜井氏が来ていた。
裁判長入場まで、その自称桜井氏を見ていたが、ほとんど傍聴席を見る事はなかった。

今回、高裁判決を迎えるにあたり、在特会側の控訴理由書も読んでみたが、新事実もなく、正直、一審において在特会側が持ち出していた「表現の自由」と「政治的主張もある」の焼き直しとしか思えなかった。
よって、高裁判決は前回エントリーで書いたように
「この控訴審における在特会等の陳述と一回結審を見る限り在特会等の訴えを組むものとは考えられない。判決の構図は、どこまでいっても高裁による原審判決の精査というものになると思われる」で間違っていないと考える。
その意味で、判決が出るまでドキドキですよ。


裁判長らが入場し、マスコミの撮影が2分入る。この2分なんか長いなと感じていたとこで撮影が終了。
すぐに裁判長が、事件番号を読み上げ、判決が響き渡る。


「本件、各控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」


うおっ、やった。傍聴席がざわめく。


「判決は長文になるので省略します」


すると、在特会側席後ろのほうから女性のかな切り声が響きあっけにとられた。


「日本の司法も終わったね。腰抜けばっかり」「朝鮮人におもねって。恥を知れ、恥を。」


見れば現代撫子倶楽部中谷良子氏であった。
それをとがめる声が入る。彼女はそこにむかって言い放つ。


「うっさい、朝鮮人。拉致実行犯やないか、あんたら、ニッポンから出ていきいや」


彼女は裁判所職員により表に連れ出されていく。
その間も彼女のかな切り声が響く。


「ニッポンから出ていけー」


何が起こったのかしばらく茫然としていた。
判決は、完勝と言えるものであった。
しかし、その判決が下された法廷のその場でヘイトスピーチがこだましていた。


あほうが一人騒いだだけで、判決がひっくり返るはずがない。当然だ。
しかし、一人のあほうが発するヘイトスピーチでも人を殺す事はできる。
これは象徴的な出来事なのだろうか。

原告の訴えが実った喜びと、少しのやりきれなさとをかみしめながら支援者集会に向かった。




以下、
控訴審弁護団コメント 
判決文(マスキング済)
理事長・控訴審コメント 
https://drive.google.com/folderview?id=0ByANmUwyq0NVQW1DRVFrOXF6Ums&usp=sh


判決感想は後日。

朝鮮学校嫌がらせ事件裁判控訴審

最初に、正直に告白します。今回の裁判は、前日まで、京都地方裁判所でやるものと思いこんでいた私です。危なかったです。皆には内緒にしといてください。



3月25日、大阪高等裁判所にて京都朝鮮学校嫌がらせ事件控訴審裁判が執り行われた。
この日は、傍聴券を求めて早めに裁判所に着いたが、傍聴券抽選前のはやい時間から警察が警備の打ち合わせと配置で動き回っていた。しか警察だけではない、多くの裁判所職員が所内に出張って警備にあたっていた。
これら物々しい警備は、昨今の在特会を始めとした「排外主義グループ」関連の「トラブル防止」を念頭においたものと思われる。
そんな中、事前に決められていた場所での傍聴券抽選並んだのは、学校支援者側が最終的に180名ほど。在特会側は10名ほどいたと聞いた。
法廷席は75名と聞いていたので、倍率2倍以上となったが当たり。ここまでくると、どんだけクジ運がいいんだとうっとりする。


法廷に入り見渡すと、在特会等側の一人は確認したが他はわからず。傍聴席のほとんどは学校支援者と思われる。また控訴人席には、徳永弁護士、在特会副会長八木氏と控訴人の一人である中谷氏がおり、学校側は何時もの弁護団が座っていた。
なお、この控訴審では、在特会等側が控訴したことで、本来は、在特会等側を控訴人、控訴側と呼び、学校側を被控訴人、被控訴側と呼ぶが、ややこしいのでそのまま「在特会等側」「学校側」と呼ぶことにする。

裁判官入場で、さっそく確認が始まる。
在特会等側は上申書、控訴理由書、準備書面が出されており、学校側はそれら反論書面となる「控訴答弁書」とそれぞれの書証が出されていた。
そして、双方が陳述を求め、裁判長より10分以内の陳述がされる事になった。

まずは在特会等側の陳述であるが、冒頭から「一審判決はヘイトスピーチの抑止を目指した画期的な判決と言われるが、判決理由ヘイトスピーチにふれたとこはない」と徳永弁護士が述べたとこから始まりひっくり返った。前に在特会会長自称桜井氏が生放送で語っていたのが「一審判決にはヘイトスピーチと書いてないからヘイトスピーチじゃない」という「ガキの言い訳」と同じ言い回しだったからだ。ただ、徳永弁護士はこの後、人種差別撤廃条約の立法を日本が留保しているところから、「原審判決は懲罰的賠償」であるとして、それは日本の法制度では認められていないもので、日本の司法制度での「損害の回復としての被害補償」ではなく、アメリカなどのペナルティとしての損害賠償を認めたのだという主張を展開した。
しかし、その後、在特会等側が行ったヘイトクライムを「政治的主張であり公益目的であった」とする、原審判決で断罪された主張、細かく言えば「在日特権」などを始めとした、出鱈目、妄想、デマに基づく差別扇動行為を「政治的主張」とする論を展開。あげくに朝鮮半島情勢を持ち出し、それら嫌韓感情が差別意識とは別物だとし、在特会等側行為を安易に「差別行為」としてはならないとした。
聞いていて正直辟易とした。徳永弁護士のいう主張は、「レイシストの言い訳」そのものとしか思えない。
あの校門前で在特会等側が行った行為、発した言葉の何処に政治的主張と言えるものがあるのだろう。それらは在特会等側が自らネット上で拡散した映像により、その悍ましさは明確なものであり、幾多の証拠、証言に基づく原審判決で断罪されたものだ。それらを繰り返す呆れた主張は、法廷内でヘイトクライムを隠蔽、過小化する意味でヘイトスピーチと言えるものである。
結局のとこ、在特会等側の陳述では、「懲罰的賠償」以外で目新しいものはなく、そして事件の新たな状況証拠、証言は何もなかった。

結局、10分以内と言いながら13分かかった在特会等側の陳述の後、学校側より朝鮮学園理事長による13分の陳述となった。

その陳述は、一審判決が「被告らが子どもたちのいる校舎に放った怒号や罵詈雑言は「表現の自由」などではく、朝鮮人に対する民族差別と判断された」事により安堵があった事を述べ、事件の経過として学校側は法と警察に事態を委ねたが、その警察が在特会等側の蛮行を止める事ができない消極的姿勢に期待は音を立てて崩れていく心情と、事件による学校側の被害状況、損害の重さを述べ「この判決(原審判決)があの12月の時点で既にあったならば、そして、こうした行為が明白に違法であることや、その人種差別の被害が深刻なものとなることの意味が警察組織にも理解されていたならば、警察官もあのときのような「寛容な対応」に終始するのではなく、子ども達を守る対応をしてくださったのではないか、とも思うのです」と切実な思いを訴えた。


双方が陳述を終えると、在特会等側の徳永弁護士より、学校側より出された「控訴答弁書」への反論を出すために、もう一回、期日の要求があったが、裁判長より「ご意見は受けたまりましたが既に充分議論がなされていると考えています」と一蹴され、朝鮮学校嫌がらせ事件控訴審は結審した。


控訴審判決がどのようなものとなるかについて予想はできるがあくまで予想である。ただ、この控訴審における在特会等の陳述と一回結審を見る限り在特会等の訴えを組むものとは考えられない。判決の構図は、どこまでいっても高裁による原審判決の精査というものになると思われる。

次回、判決は7月8日。



なお、以下は学校側より出された「控訴答弁書」の目次である。「第1 控訴理由書に対する反論」は在特会等側より提出された「控訴理由書」への項目ごとの反論となっており、「第2 被控訴人の主張・原判決の損害認定が適正であること」はそのまま一審判決が適正であるとの答弁書となっており、これらは全体で50ページに及ぶものとなっている。

第1 控訴理由書に対する反論
1 第1 懲罰的賠償、制裁的賠償について」に対する反論
① 無形損害の認定
人種差別撤廃条約「公正かつ適正な賠償」等の意義
③ 小括
2「第2 人種差別撤廃条約と「留保」等について」に対する反論
① 「2 条約の自動執行性」について
② 「3 憲法の人権保障と人種差別撤廃条約の効力」について
③ 「4 人種差別撤廃条約加入に際しての留保」について
④ 「5 国籍による区別について」について
3「第3 威力業務妨害名誉毀損 〜控訴人M…」に対する反論
① 控訴人Mの主張
② 映像公開と示威行為との間には関連共同性が存在すること
③ 現に、映像公開による業務妨害が生じていること
④ 違法性阻却事由に関する主張について
4 「第4 差別的動機と「専ら公益を図る目的」に対する反論
① 原判決の評価の妥当性
② 公益を図る目的ではないことを示唆する他の事情
5「第5 応酬言論の主張について」に対する反論
① はじめに
② 板垣意見書 レイシズムの視点からの分析
6 「第6 差止めの可否について」に対する反論
① 原判決が控訴人N・Hらに対して差止請求を認めた理由
② 控訴人らの示威活動への動機は消滅していない
③ 控訴人らによる示威活動のおそれ、常識を備えた一般平均人を想定をして判断してはならない
④ 小括

第2 被控訴人の主張・原判決の損害認定が適正であること
1 はじめに
2 「無形損害」の判断要素
① 「無形損害」の判断要素
② 法人の「無形損害」と自然人の「慰謝料」の判断要素
3 原判決における損害認定が妥当であること
① 示威活動①および映像公開①について
② 示威活動②および映像公開②について
③ 示威活動③および映像公開③について
4 人種差別撤廃条約と、人格的価値の保護の要請
① はじめに
② 井上論文、司法研修所論文において、人格権侵害の側面が重視されていること
人種差別撤廃条約の推進など
④ 本件学校法人の人格的価値に対する毀損
⑤ 人種差別ならではの特徴〜個人による提訴の困難性
5 控訴人らが得た利益を、無形損害の評価に反映すべきこと
6 慰謝料額算定の定型化の試みからの検討


以上。

朝鮮学校嫌がらせ裁判 判決 傍聴記


10月7日判決。ついにこの日がやってまいりました。思い起こせば2010年9月に第一回口頭弁論がはじまり、あの時は、本当によくわからない状態でして、ただ、ネットで朝鮮学校襲撃の動画を見て、こいつらは何者だ?何故このような惨い事ができる?と疑問だらけでした。それは、それ以前、蕨市における許し難いデモから、所謂行動界隈というものとそれを支持するネット論調を読むにつれ絶望していた矢先の出来事でした。
当時の筆者の心境は、その絶望の中でも、ともかく連中を直接この目で見なければいけない焦燥感にかられたものでした。そして被害者である今の朝鮮学校とその父母らに出会います。
あれから丸3年。筆者にとって長い3年であり、あっという間の3年でした。筆者にとってそうなのだから、被害者である朝鮮学校、そしてその父母らにとっては当然それ以上の3年です。






判決の前日までそうでもなかったが、当日、朝、目が覚め何気なしにツイッターを見たら、原告弁護団の一人が「神さま・・」と呟いている。それ見ていきなりドキドキしはじめた。なんですか、あれですか、ドキドキするのは伝染病ですか。もらいドキドキというのがあるのですか?
そういうヒートアップした状態で京都裁判所へ抽選の30分前に着く。で、予想はしていたが、もう100人くらい列に並んでいる。
駄目です。本日の競争率は優に難問国公立大学の入試なみですよ。マスコミもいっぱい。そんな競争率ながら、玉砕覚悟で取材に訪れるフリージャーナリストの姿もいっぱい。ご苦労様です。
ともかく、何時もの口頭弁論と違います。緊張感が満ちていて、なんか知っている人と話をしなければ場がもちません。で、碌な用もないのにあちこちと。
そして、抽選発表。見事外れる。
そらそうだ。難問国公立大学だからなーと諦めるわけないだろが。
世界の読者が筆者をまっているのだ。(注;当ブログは裁判がある前後だけ異様にアクセス数が多いという読者の目的もはっきりしているブログです。ちなみに本当に世界からで、ブログ主は本気でびびってます)
すぐに当たった人のとこにすり寄り、傍聴券の強奪を試みる。すると、碌でもない事しか書いてない裁判に特化したようなブログ主とご存じで、快く頂けた。やった、ブログやっていてよかったー。ありがとうございました。ご恩は傍聴記に反映させていただきます。って、これなんですが・・。




法廷に入り込むと、席がすぐにうまっていく。今回の傍聴席は記者席を多めにとっていて、実質70名ちょいくらいの席で、被告側は2名ほど。その他は学校支援者と思われる。
10名ほどの原告弁護団も緊張しているようで、こちらはさらにドキドキしてきた。
そして、毎度のごとく、被告側は時間ぎりぎりに入場してきたが、いつもの徳永弁護士、八木氏の他に被告である川東氏がいた。
この、川東氏、席に座るや、傍聴席を見わたし、ニヤニヤしていたのだが、すいません、正直、気色悪かったです。こっち見んなと心の中で10回はつぶやいてました。


そして、裁判官らが入場。傍聴人らが起立し席に着く。時間は11時少しだけまわる。
裁判長より、いきなり主文読み上げ。耳を研ぎ澄ます。
この時、最初にうんたらかんたら544万という数字が聞かれ、よくわからずに、そんなもんかい!と一瞬思ったが、その後に、341万、330万という数字が続いて気がついた。
あ、そうか、3回の街宣、デモに対してそれぞれの金額なのだな。
合算で幾らなのだ?1200万以上だ。そして筆者はそこに、ブレノ氏と美玖氏が入っている事に注目した。
そんな思考を巡らせている間も、裁判長より主文の言い渡しが続いている。
移転した新校舎での街宣も差止されたのを確認。
ここまでは、まあ、満足はできる。
で、問題はその根拠だ。判決文では何をもってのその1200万以上であり、街宣差止なのだ?何が認められたのだ?
それに意識を集中しはじめた時に、裁判長は主文を読み上げ、あっさりと退場した。
そして、また、裁判長が主文を読み上げるその間、筆者は、八木氏、川東氏の顔を見ていたが、見る見ると表情が険しくなっていた。主文読み上げ前までにあったニヤニヤ顔は既になかった。


裁判官退場後、筆者は急いで、裁判の判決文の内容を求めて走り出した。
これで裁判は終わった。長かった3年は一つのくぎりとなり結果も出たはずなのだが、そんな感慨よりも、判決文を読むまではわからないだらけでモヤモヤしていた。



さて、その判決文であるが、当ブログ上で公表したとおりである。それ以外では、判決文資料として、被告らの各街宣デモでの発言と主張、そして原告の被害として「本件示威活動対応のため本件学校の教職員が費やした述べ時間数の集計表」が付け足されている。
つまり、それが判決の中で何が認められ、何が認められなかったというものだが、それらの説明も判決文の理由に記されている事を述べておく。


まず、この朝鮮学校嫌がらせ裁判の判決は、既に各新聞、各論調によって様々に評価はされている。
その評価の中で、特に画期的とされるのが、「人種差別撤廃条約」に沿って賠償額(責任性)の荷重が成されている点である。今までの人種差別撤廃条約に即した思われる事件として静岡と小樽の事件があるが、今回の判決ほどに具体的な記述がされた判決はなかった。その意味で、人種差別撤廃条約に言及し、国内法との整合性にまで踏み込んだ画期的と言える判決である事は間違いない。

静岡「「外国人入店拒否」訴訟 判決
http://www.jca.apc.org/jhrf21/nl/NL11E.html
小樽「温泉入浴拒否」訴訟 判決
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=6&ved=0CE4QFjAF&url=http%3A%2F%2Fwww.courts.go.jp%2Fhanrei%2Fpdf%2F4384F726CF8D382149256C94001BE8D0.pdf&ei=bIVXUpTyOYOklQXK9oG4DQ&usg=AFQjCNEj0l9RDOVEtn8PKsLi9mMfJWbf4A&sig2=OHNzm2FnMky1J6IGRZGWsw&bvm=bv.53899372,d.dGI

さらに言えば、この判決文は「第3 人種差別撤廃条約下での裁判所の判断について」で、「わが国の裁判所は、人種差別撤廃条約上、法律を同条約の定めに適合するように解釈する責務を負うものとうべきである」とはっきりと人種差別撤廃条約をもちいて「日本国内の人種差別」に救済の道を開けと述べ、それを賠償の加重の根拠としている。つまり、従来、日本の司法は有形損害に比して無形損害(心の傷など)は恐ろしく冷淡な側面があったのだが、この人種差別撤廃条約を根拠に、差別による目に見えない無形損害の評価を著しく底上げする正当性としている。
ただし、この差別による無形損害の評価は、先にあげた静岡、小樽の例だけではなく、今回の被告となっている川東氏が引き起こした「水平社博物館差別街宣」判決のように、差別と認定されれば150万というように、既にその流れは始まっているし、今回は集団で起こした点で賠償額が大きくなったという側面も考えられる。
一方、この判決は無条件で人種差別撤廃条約を持ち込むのではなく、民法709条との兼ね合いも述べ、その制限をもうけている。これは、高裁、最高裁へと続く道のり、或いは類する訴訟に対して、この判決の正当性を確たるものとする工夫と想像する。


次に、この判決を読めばわかるが、被告側の主張を何一つ認めていない。そこに「50年に渡る公園の不法占拠」なるものや、「日本国民が公園を使えない」「戦後焼き野原から奪った土地」「スパイ養成機関」「スパイの子供」「こいつら密入国者の子孫」などなど、被告らが3回にわたり起こした街宣・デモでの主張は、全て出鱈目として朝鮮学校への誹謗中傷として認定され、1200万以上に及ぶ賠償金の糧とされた。これは当然のことだが、判決で認められた意義は大きい。
つまり、今後これらヘイトスピーチによって、原告を誹謗中傷するものは、全て訴訟対象となる可能性が極めて高い。今後、被告らに追随し同じ脈絡で原告を誹謗するならば、それでポンと100万以上という巨額の賠償金になると誹謗者らは肝に銘じたほうがいい。
実際、裁判記録を見ると、被告らからの提出資料は山のようにあった。その中には拉致問題に関する政府機関の資料とか警察記録もたくさんあった。しかし、それらはことごとく、この裁判の本筋からは外れたものと判断された。何故なら、被告らは、何ら正当な手続きを踏まず、手前勝手な屁理屈で学校を襲い、その出鱈目な誹謗中傷をもって原告への被害をもたらしたからだ。これが理解できず、被告らに追従しヘイトスピーチを繰り返すものは、その報いを何時かうける事になると覚えといたほうがいい。


また、この判決の有意義な点は、在特会の当事者能力を認めた事である。これは組織性を認め、例え、被告である自称桜井誠氏がその場にいなくとも、全国各地の在特会の名をもつ各支部に何か問題が生じれば、その責任は被告である自称桜井誠氏に及ぶ事を意味する。
それが嫌なら、さっさと会長を辞めるか在特会を解散したらいい。ただし、本件事件に関してはその責任を果たすまで原告弁護団は黙っていないだろう。


そして、この判決の他の有意義な点は、「中立のカメラマン」というブレノ氏と「単なるコーラー」とする美玖氏の賠償責任を認定した事である。
ブレノ氏の場合、京都・徳島の襲撃事件刑事裁判において、その「中立のカメラマン」という検察から面倒くさいと思われたその地位であるが、今回の判決において、他の被告らと同様、「お仲間」認定を受けた。今回はその「お仲間」から同志愛に満ち溢れた重要証言もあったが、彼の手前勝手な陳述、証言もさる事ながら、彼の「実績」を考えれば、この「お仲間」認定も当然と言える。今後、ヘイトスピーチを起こす集団で、自分は「ただのカメラマン」をしているだけと思っている人は、その考えを改めたほうがいい。しかもその映像をネットで拡散するとしたならば、その責任は大きくのしかかってくる事を知ったほうがいい。
続いて、美玖氏についても、その証言と「実績」から「お仲間」認定と思われるが、彼女を認定したのは大きい。今後、ヘイトスピーチを起こす集団によるデモで、気軽にコーラーを引き受ける人がいるなら、これも、同じく、その人は大きな責任を負う事を忘れてはならないだろう。


さらに、この判決について、筆者は述べなければいけない事がある。
それは、この判決には「民族教育の保障」という原告の主張がスルーされていた事だ。この「民族教育の保障」は、原告が第一準備書面で記され裁判に提出したように、原告にとって、この「民族教育の保障」というのは切実な願いであり、この事件に対する原告の原点である。

例えば、今回の裁判に対する神奈川新聞のこの記事を読んでほしい。
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1310100004/

いま現在、日本政府を上げて、朝鮮民主主義人民共和国に対する敵対的行動の一つとして朝鮮学校を標的にした「差別行為」を行っている。
理由は「朝鮮学校は総連傘下であり、「北朝鮮」と繋がっているから」である。この理屈は、今回の裁判で出てきた在特会を始めたとした被告らの主張と同じである。政府がやっている事と在特会の唱えるものの差異を何処に求める事ができるだろうか。
だからこそ、朝鮮学校は、そして学校に子供を通わせる父母は訴えるのである。この学校で学ぶことを保障してくれと。これは、民族学校生存権を賭けた問いかけである。
この事件の原告の訴えは、表面的に表れた判りやすい在特会などの「悪漢」のみならず、その在特会を支える「空気」、または、在特会などの唱えるものと何ら変わりないヘイトを容認する「社会」に対する問いかけである。
はっきりという。筆者は過去より、共和国の体制を批判してきた。例えそれが、朝鮮民族として原則性をもつ国家としても、その独裁制を批判してきた人である。
しかし、それでもだ。「朝鮮戦争は韓国と国連軍が侵略してきた」という教科書を使っていたら、民族教育は全否定されるものなのかを問いかけたい。それだけで朝鮮学校は認められないものなのか。そんなわけはない。
一つのものを取り上げて、それで全否定する思考は、それは在特会と何も変わらない。朝鮮学校に子供たちを通わせる事を、「北朝鮮への洗脳教育」への肯定と思えるその無知と偏見が、今の朝鮮学校を取り巻く環境といえるし、今回の事件はその表層に現れたものにすぎない。学校に子供を通わせる親御さんの願いは、無知と偏見にまみれたこの社会で、朝鮮人と生まれたその出自は、決して恥ずかしいものではないように育ってほしいという願いで朝鮮学校に通わせるものであり、朝鮮学校は資金も人も不足する中、必死で学校を運営し、それに応えている。
朝鮮学校を存続させえるのは、他の誰でもない、学校自身と父母らで決める事である。それを無知と偏見にさらされた部外者がとやかくいうのは、それはヘイトに繋がると言っていい。
朝鮮学校自体、この間、劇的に変化している。これは、裁判で提出された、同志社大板垣氏の意見書であり、朝鮮学校の歴史と現況について語られているので、一読を進める。

朝鮮学校への嫌がらせ裁判に対する意見書」
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&ved=0CCsQFjAA&url=http%3A%2F%2Fdoors.doshisha.ac.jp%2Fwebopac%2Fbdyview.do%3Fbodyid%3DTB12605649%26elmid%3DBody%26lfname%3D031001050005.pdf&ei=abdXUq63FcfEkwX7jYG4BQ&usg=AFQjCNF2GM58AGaCloeEKe90xCdPqUtAvg&sig2=JDp5x68044RgFpViBmJIwg&bvm=bv.53899372,d.dGI

さらに、これは、学校関係者に負担を及ぼすし、言いにくいが、わからなければ学校の授業を見学にいけばいい。そこには元気で授業を受ける子供たちと、その子らのために献身的努力を惜しまない先生方がいるから。そしてそこに認めなければいけないものがある事を知ってほしい。ただし、ネトウヨ在特会などの関係者はお断りだ。


今回の判決で、「民族教育の保障」というものが、国家政策に係るものだから判断をさけたのか、それとも受け入れやすいように「民族教育の保障」というものの一つである「学校教育を守れ」を「ヘイト認定により守る」に置き換えたのか、それはわからない。
ただ、この「民族教育の保障」は、現在行われている、「朝鮮学校無償化裁判」で再び問われるものとなるだろう。


しかし、それにしても、今回、被告らにとって「完膚なきまでの敗北」判決が出たにも関わらす、下記のような呼びかけが行われている。

2013年11月4日(月)   
「司法による勧進橋児童公園不法占拠事件の偏向判決を許すな!デモ」
http://calendar.zaitokukai.info/kinki/scheduler.cgi?mode=view&no=196

暗澹たる思いになる。でも、このデモに参加する人らは、今回の判決によって、訴追対象者になる事を想像したほうがいい。しかもそれはとても軽い額になるとは言えないものだ。でね、これ、控訴審があれば、原告側にとって、ヘイトスピーチ二次被害、悪質性の証明になるだけのもので、被告らの首を絞める事になるだけだよ。わかってないでしょ。


メディアによると、在特会などの被告が控訴の方針を出しているようだ。
原告らのご苦労を考えれば、軽々に言いにくいものがあるが、筆者としては、高裁にも最高裁にもいってほしい気がある。そして最高裁ヘイトクライムと言っていいこの事件の判断を確定してほしいと願っている。恐らく原告弁護団は準備しているだろう。



最後に、原告の皆様、学校父母の皆様、原告弁護団の皆様、支援された皆様。本当にご苦労様でした。望んでいたものの半分くらいかもしれませんが、ともかくひとまずはおめでとうございました。

朝鮮学校嫌がらせ事件裁判判決 理由2

(判決 理由1より続き)


4  示威活動3及び映像公開3について

(1)業務妨害となること
示威活動3は,示威活動1,2とは異なり, 日曜日に行われたものであり,目に見える形で本件学校における教育業務に及ぼした悪影響としては, 本件学校に休日出勤していた女性職員が帰宅せざるを得ず,また,他校でサッカーの試合を行っていた児童たちも本件学校に帰校できなかったというものにとどまる。
しかし,日曜日に行われたとはいえ3度目の示威活動が行われた事実, しかも,それが本件仮処分決定が示威活動を禁止した範囲にまで及んだ事実は,本件学校の児童,その保護者及び教職員に対し, 被告らがいつまた本件学校周辺で,大声で本件学校を侮蔑する集団での示威活動に及ぶか分からないとの恐怖心を与えるものである。これにより,児童が本件学校に行くことをためらい,また,保護者も自分の子を本件学校に通学あるいは入学させることを躊躇することも考えられるし、本件学校の教職員は,警戒態勢を取るための心身の負担に曝され続けるのであって,自に見えない形で本件学校における教育業務に与えた悪影響は非常に大きいものといわなければならない。したがって,示威活動3は,日曜日に行われたものの,やはり示威活動1,2と同様,原告の本件学校における教育業務を妨害する不法行為に該当する。

(2) 名誉毀損となること
示威活動3及び映像公開3は,本件学校が本件公園を50年間奪い取っていたこと, このことにより日本の子どもたちの笑い声を奪ったこと,本件学校が北朝鮮のスパイを養成していること,本件学校が無認可で設置されたこと,本件学校は学校ではないことを,不特定多数人に告げるという行為であり,原告の学技法人としての名誉を著しく損なう不法行為である。



5 本件活動による業務妨害及び名誉毀損人種差別撤廃条約上の人種差別に該当すること 

(1) 活動の意図
ア 本件活動における被告らの発言を含め,前記認定の本件の事実経過全体を総合すれば,被告○○被告○○被告○○被告○○は, かねてから,在日朝鮮人が過去に日本社会に害悪をもたらし,現在も日本社会に害悪をもたらす存在であるとの認識を持ち,在日朝鮮人を嫌悪し,在日朝鮮人を日本人より劣位に置くべきである,あるいは, 在日朝鮮人など日本社会からいなくなればよいと考えていたこと,つまり,在日朝鮮人に対する差別意識を有していたものと認められる。
イ また,前記認定の事実経過に照らせば,上記被告らは,自分たちの考えを表明するための示威活動を行うとともに,自分たちの考えを多数の日本人に訴えかけ,共感を得るため,自分たちの言動を撮影した映像を公開するという活動もしていたが,本件学校が校庭代わりに本件公園を違法に占拠している事実を把握するや,その不法占拠を口実にして本件学校に攻撃的言動を加え, その刺激的な映像を公開すれば, 自分たちの活動が広く世に知れ渡ることになり,多くの人々の共感を得られるはずだと考え,示威活動1に及んだものと認められる。
上記被告らは,示威活動1において,本件公園の違法な占用状態を(行政を通じてではなく, いわば私人による自力救済として)解消する意図で活動したかのように装っている。しかし,それが表面的な装いにすぎないことは,その映像自体から容易にうかがい知れるし, 被告○○が,京都市の担当者から平成22年1月か2月にはサッカーゴール等の物件が自発的に撤去される予定であると聞いていたのに, 「朝鮮人を糾弾する格好のネタを見つけた」と考え,自分たちの活動を世間に訴える目的で示威活動1を敢行したことからも明らかである。
ウ 示威活動1を発端としてなされた本件活動が,全体として在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図の下に行われたことは,前記認定の事実経過に照らして,明らかである。
エ なお,被告在特会と主催会とでは異なる行動指針を有しているが(認定事実2と3) ,本件活動での被告らの言動に関する限り,両者の思想や意図の違いをうかがい知ることはできない。

(2) 差別的発言
ア 被告らは、示威活動1において,朝鮮総連関係者を「朝鮮ヤクザ」と罵り,朝鮮学校について「日本からたたき出せ」「ぶっ壊せ」と言い,在日朝鮮人全般について「端のほう歩いとったらええんや」「キムチ臭いで」とあざけり,さらに「約束というのはね,人間同士がするもんなんですよ。人間と朝鮮人では約束は成立しません」などと在日朝鮮人が人間ではないかのように説明している(番号5,6,8,10, 11)。番号11の発言は,警察官に対して発せられたものであるが,示威活動1における被告らの言動は,すべて映像で公開することを予定してされたものであり, 実際に映像が公開されてもいるから,被告○○が 不特定多数の映像視聴者向けに流布した発言というべきである。
イ 被告らは, 示威活動2においては, 朝鮮学校を「日本から叩き出せ」「解体しろ」と言い,在日朝鮮人全般について,戦後の混乱期にわが国で凶悪犯罪を犯して暴れまくったと言い, 「不逞な朝鮮人を日本から叩き出せ」として日本社会で在日朝鮮人が日本人その他の外国人と共存することを否定し, さらには「保健所で処分しろ,犬の方が賢い」などとあざけり,在日朝鮮人が犬以下であるとするのである(番号13ないし16 )。
ウ 被告らは, 示威活動3においては,朝鮮学校を「卑劣,凶悪」と言い,在日朝鮮人について「ゴキブリ, ウジ虫, 朝鮮半島へ帰れ」と言い放っている(番号21,24)。
エ さらに,甲第8ないし10号証によれば,上記アないしウの発言以外にも, 被告○○被告○○を始めとする様々な参加者によって「朝鮮部落,出ろ」「チョメチョメするぞ」(示威活動1), 「ゴミはゴミ箱に, 朝鮮人朝鮮半島にとっとと帰れー」「朝鮮人を保健所で処分しろー」「糞を落としたらね,朝鮮人のえさになるからね,糞を落とさないでくださいね」(示威括動2),「朝鮮メス豚」「朝鮮うじ虫」「日本の疫病神, 蛾,うじ虫,ゴキブリは,朝鮮半島に帰れー」(示威活動3)等の在日朝鮮人一般に対する差別的な発言や,「ぶち殺せー」といった過激な大声での唱和が行われた事実が認められる。
オ 上記アないしエの発言は,いずれも下品かつ侮蔑的であるが,それだけでなく在日朝鮮人が日本社会において日本人や他の外国人と平等の立場で生活することを妨害しようとする発言であり,在日朝鮮人に対する差別的発言といって差し支えない。
(3) 以上でみたように,本件活動に伴う業務妨害名誉毀損は,いずれも,在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図の下,在日朝鮮人に対する差的発言を織り交ぜてされたものであり,在日朝鮮人という民族的出身に基づく排除であって,在日朝鮮人の平等の立場での人権及び基本的自由の享有を妨げる目的を有するものといえるから,全体として人種差別撤廃条約1条l項所定の人種差別に該当するものというほかない。
したがって,本件活動に伴う業務妨害名誉毀損民法709条所定の不法行為に該当すると同時に,人種差別に該当する違法性を帯びているということになる。




6 名誉毀損としての違法性又は責任の阻却事由について
(1)事実を適示する表現行為の場合
わが国の判例理論によれば,他人の名誉を損なう表現行為であっても,摘示事実が公共の利害に関する事実であり, 専ら公益を図る目的で表現行為がされ,かつ,適示事実が真実であることが証明されたときは,当該表現で名誉を低下させたことは違法でないとされる(違法性の阻却)。また,仮に,摘示事実が真実であることが証明されない場合でも,これを真実と信じるについて相当の理由があるときには,名誉を毀損したことについて過失がなく、やはり不法行為は成立しないものと解される(最高裁判所昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号11 1 8頁)。
(2) 論評表現の場合
わが国の判例理論によれば,ある事実を摘示した上での論評表現が他人の名誉を損なう表現行為に当たる場合,摘示された前提事実(直接的な事実の摘示がない場合は黙示的に摘示されたとみられる事実)が公共の利害に関する事実であり,専ら公益を図る目的で表現行為がされ,前提事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,論評表現としての域を逸脱したものでない限り,当該論評表現で名誉を低下させたことは違法でないとされる(違法性の阻却)。
また,仮に,前提事実が真実であることが証明されない場合でも,これを真実と信じるについて相当の理由があるときには名誉を毀損したことについて過失がなく,やはり不法行為は成立しないものと解される(最高裁判所平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号380-1頁)。
(3) 本件へのあてはめ
上記判例法理によって免責されるのは。名誉毀損表現が事実摘示であろうが論評であろうが,専ら公益を図る目的で表現行為がされた場合だけである。では, 本件活動における上記2ないし4の名誉毀損表現が専ら公益を図る目的でされたのかといえば,そう認定することは非常に困難である。なぜなら,本件示威活動は,本件学校の付近で拡声器を用い又は大声で行われたものであり,示威活動1では,本件学校が本件公園に設置していたサッカーゴールを倒し,スピーカーの配線を切断し,朝礼台を移動させるという実力行使を伴うものであり,示威活動2,3では街宣車を伴うという威圧的な態様によって行われたものである。公益を図る表現行為が実力行使を伴う威圧的なものであることは通常はあり得ない。
加えて, 前記のとおり, 本件活動は, 全体として,在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図の下,在日朝鮮人が日本社会で日本人や他の外国人と平等の立場で生活することを妨害しようとする差別的発言を織り交ぜてされた人種差別に該当する行為であって,これが「専ら公益を図る」目的でされたものとは到底認めることはできない。
したがって本件活動における名誉毀損判例法理により免責される余地はないものといわなければならない。
なお,上記2ないし4で名誉毀損であると認定したものは,事実の摘示を伴うものに限定している。それ以外の被告らや本件示威活動参加者の発言や表現について,被告らは、意見の表明であるというが,意見や論評というよりは,侮蔑的な発言(いわゆる悪口) としか考えられず,意見や論評の類として法的な免責事由を検討するようなものとは認められない。
7 応酬的言論の法理による免責の有無
被告らは,番号7,8,10,15及び21の各発言については, 別表甲の「被告らの主張」欄のとおり,本件学校関係者の態度や発言に対する応酬的な悪態にすぎないと主張する。
確かに,自己の正当な利益を擁護するため, やむをえず他人の名誉を損なう言動を行った場合は,それが当該他人による攻撃的な言動との対比で,方法及び内容において適当と認められる限度を超えない限り違法性が阻却されるものと解される(最高裁判所昭和38年4月16日第三小法廷判決・民集17巻3号476頁)。
しかし,被告らは,招かれてもいないのに本件学校に近づき,原告の業務を妨害し,原告の名誉を貶める違法行為を行ったものである。被告らの違法行為に反発した本件学校関係者が被告らに敵対的な態度や発言をしたことは否定できないが,被告らは,自らの違法行為に上ってそのような反発を招いたにすぎないから,上記法理によって免責される余地はない。





第5 被告らの共同不法行為責任について(争点4に対する判断)


l 民法719条l項前段の意味内容
民法719 条1 項前段(以下「前段」という。)は,「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」と規定する。
複数の行為者の違法な行為によって損害が発生した場合,民法の根本原則である私的自治の原則から導かれる自己責任の原則からすれば,行為者はそれぞれ自己の行為によって生じた損害についてのみ責任を負えばよく,他の行為者の行為によって生じた損害についてまで責任を負うべき義務は生じない。
しかし,複数の行為者の行為によって損害が発生する場合,その行為者相互の関係,各人の関与の態様,各人の行為の内容,被害の態様,因果関係の系列などは千差万別であり,被害者側がそれらの詳細を把握して立証することは困難を伴うことが多い。
前段の規定は,そのような被害者側の証明の困難性を考慮し,被害者保護の観点から、複数の行為者の行為が互いに関連する共同の行為であると評価できる場合, 被害者は、その共同の行為と結果との間の因果関係を立証すれば,共同行為者の一人一人に対し,共同行為によって発生した結果の全部について賠償を求めることができ,共同行為者は各人の行為と結果との間の個別的因果関係の不存在を理由とする減免責を主張することができない旨を定めたものと解するのが相当である。
このように, 前段の規定は, 被害者保護の観点から,複数の行為の関連共同性を要件とすることによって, 自己責任の原則を修正し,共同行為者の各人に対して共同行為による結果の全部責任を負わせるとしたものである。
そうすると,ここでいう関連共同性については, 行為者間の主観的な共謀関係があることまで必要ではなく,結果の発生につき各行為が客観的に関連し共同していることで足りるが,その各人の行為が,結果との関係で社会観念上一体をなすものと認められる程度の緊密な関連があることを必要とするものと解すべきである。

2 本件示威活動と本件映像公開の行為の関連共同性
本件示威活動と本件映像公開とは,加害行為としては態様が異なる行為である。例えば,示威活動1は喧噪によって授業を妨害する行為であるが,映像公開1自体は,現場で授業を妨害する行為ではない。
しかし,名誉毀損行為としてみたときは,本件示威活動と本件映像公開は密接不可分の加害行為であって,示威活動1による名誉毀損損害と映像公開1による名誉毀損損害を峻別して認定することは困難である。
また, 学校を攻撃対象とする加害行為がされた場合,名誉毀損による無形損害と同時に, 業務妨害によっても大きな無形損害が発生する。業務妨害によって生じる無形損害は, 示威活動の日に生ずる授業の混乱のみではない。後日にも,財産的損害として金銭に見積もることが容易でない学校運営上の様々な支障が継続的に発生するのである。そして,本件映像公開は,インターネットを通じ,不特定多数人に継続的に本件示威活動の様子を開示し続けるというものであり,名誉毀損業務妨害による無形損害を日々増幅させるという形で,本件示威活動と密接に関係しているのである。
したがって,示威活動1と映像公開1,示威活動2と映像公開2,示威活動3と映像公開3は,それぞれが関連共同性のある共同の行為いうべきであり,例えば,示威活動1の不法行為者は,映像公開1に関与していないとしても,示威活動1及び映像公開1によって生じた損害全体について賠償責任を負うことになる。

3 被告○○被告○○被告○○被告○○の責任について
被告○○被告○○被告○○被告○○の4名(以下「被告○○ら4名」という。)は,前記認定のとおり, 3日にわたって行われた本件示威活動のいずれにも参加し,かつ,主導的に活動に関与したことは明らかである。
したがって,被告○○ら4名は,示威活動1及び映像公開1によって生じた損害,示威活動2及び映像公開2によって生じた損害,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害のいずれについても,損害全部の賠償責任を負う。
なお,それぞれの示威活動の中の被告ら各人の行動は,関連共向性のある行為の一部を構成している。この場合,自分が実際に行った行為による損害しか賠償しないという主張は許されないから,関連共同性として一括りにすべき示威活動の一部に関与した者は,範囲内の行為から生じた損害全部の賠償責任を負うことになる。
例えば,事前の打合せがなかった示威活動1における被告○○によるスピーカーの損壊行為について,示威活動1に参加した他の被告らは,被告○○がそういう行動をとることを聞いてもなかったし知りもしなかったと抗弁して,被告○○の損壊行為によって生じた損害の賠償責任を免れることはない。
さらに,被告○○は,示威活動3では,別働隊として四条での示威活動を指揮したものであるが, 示威活動3は北岩本公園発の示威活動も四条での示威活動も,朝鮮学校を糾弾する姿を世間に訴える意図の下に, 同じ日に,一体の示威活動として行われたのであり,それぞれによって生じた原告の損害というものを別々に認定判断することも困難であるから,それら示威活動相互間には関連共同性が認められる。したがって,北岩本公園発の示威活動に参加した者は,民法719条1項の適用上,四条での示威活動(及び映像公開3)による
損害の賠償責任を免れることができない。

4 被告○○の責任について
前記認定の事実経過及び被告○○ら4名の捜査機関に対する供述調書(甲49ないし54,80,121,125及び130) によれば, 被告○○と被告○○ら4名は,主義主張を同じくする仲間であり,被告○○が被告○○ら4名の広報担当としての役割を果たしていた事実が明らかである。すなわち,被告○○は,被告在特会や主権会の主義主張に共感し,その活動を世間に知らしめるため,本件示威活動の様子を撮影し,その映像を公開していたものと認められる。
したがって,被告○○は,本件活動の全部に加わったことになるから,被告○○ら4名と同様の賠償責任を負う。被告○○は,北岩本公園発の示威活動の撮影と映像公開には関与していないが、そうだとしても,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害全部の賠償責任を負うことは,上記3のとおりである。
なお, 被告らは,撮影した映像をありのままに公開する被告○○の行為は,不法行為を構成しないかのような主張をしているが,それは全くの独自の見解であって失当である。

5 被告○○の責任について
被告○○は,示威活動2及び北岩本公園発の示威活動を自ら企画し,かつ参加もし,街宣車に乗って現場を指揮し,拡声器を用いて多くの発言をし,示威活動の中心的役割を果たしたものである。また,被告○○は、 示威活動2では被告○○が公開した映像を,北岩本公園発の示威活動では同行させた主権会のカメラマンが公開した映像を,それぞれ主権会のウェブサイトでも閲覧できる状態にしているのである。前記認定に照らせば,被告○○は,四条での示威活動が行われることを認識していなかったものと認められるが,上記のとおり,北岩本公園発の示威活動と四条での示威活動との聞には関連共同性が認められる結果,四条での示威活動及び映像公開3による損害の賠償責任を免れることはできない。
したがって,被告○○は,示威活動2及び映像公開2によって生じた損害,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害のいずれについても,損害全部の賠償責任を負う、(さらに, 後記のとおり,被告○○は,結局,民法715条1項に基づき,直接には関与していない示威活動1及び映像公開1による損害の賠償責任を負う。)。

6 被告○○の責任について
前記認定のとおり,被告○○は, 示威活動2及び北岩本公園発の示威活動に参加し,街宣車に乗り込み,被告○○が書いたメモをマイクを使って読み上げるなどの行動をとっており,これらの示威活動に主体的に関与し,他の参加者を扇動するという役割を担っていたのであり, 示威活動2及び映像公開2によって生じた損害,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害のいずれについても,損害全部の賠償責任を負うものである(被告○○が四条での示威活動やその映像公開がされることを予め知っていたのかどうかは証拠上明らかではないが,上記のとおり,四条での示威活動と北岩本公園発の示威活動との間には関連共同性が認められるから,被告○○は,四条での示威活動によって生じた損害を含め,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害全部の賠償責任を負う。)。

7 被告○○について
被告○○は,示威活動2及び北岩本公園発の示威活動に参加したものである。
被告○○は,被告在特会の副会長であり,また執行役員として地方支部運営の任命や解任を行う権限を有していたから,これらの示威活動に参加するについては,当然,事前に被告○○らと打合せを行っていたものと考えられ,また,四条での示威活動やその映像公開が行われることも予め知っていたものと考えられる。したがって, 被告○○は, 示威活動2及び映像公開2によって生じた損害,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害のいずれについても,損害全部の賠償責任を負うことは明らかである。





第6 使用者責任について(争点5に対する判断)


1  民法715条1項に基づく使用者責任が認められるには, 不法行為が「ある事業のために他人を使用する者」の事業の執行について行われる必要がある。ここでいう「ある事業のために他人を使用する」関係とは,指揮監督できる状態で当該事業に他人を従事させるという関係で足り,その他人と使用者との間に雇用・委任等の契約関係までは必要がないと解されるし,ここでいう「事業」とは継続的な事業であるか一時的な事業であるのか,営利事業であるのか非営利事業であるのかも問わないものと解される。
他人を使用することで事業活動の範囲を拡大した使用者は,事業拡大に伴って生じた危険拡大に対しても責任を負うべきだという理念を前提として,民法715条が立法されているからである。

2 被告在特会使用者責任
(1) 前記認定のとおり,被告在特会は、 在日朝鮮人を特権的に扱うことを否定することを標榜する社団であり,設立当初から,街頭での抗議活動や示威活動を行い,その様子を撮影した映像を公開して会員数を増加させてきたものである。本件活動のような街頭での示威活動やその映像の公開は、被告在特会の本来的な「事業」である。実際にも本件映像公開によって, 被告在特会の全員数は飛躍的に増加したのである。
(2) 示威活動1についてみると,公開された予告映像の題名に「在特会関西」と記載され,平成21年12月4日の当日も,被告○○を始めとする被告らは,自らを「在特会関西」と名乗ったものである。また,被告○○は,示威活動1の報告文を被告在特会のウェブサイトに掲載したものである。
さらに,甲第 59,60号証によれば、被告○○は、その自らのプログやその後の示威活動においても,示威活動1が被告在特会の活動であることを前提とする発言を行っていることが認められる。
したがって,本件活動は,被告在特会の事業そのものであったというべきである。
(3) 被告らのうち, 本件当時,被告在特会の幹部であったのは,関西支部長であった被告○○, 関西支部会計であった被告○○, 副会長の被告○○である。
前記認定のとおり, 被告在特会においては,支部の活動は基本的にその自主性に任されているが,会長である○○が直接指示を出すこともあり,また,被告在特会の会員としてふさわしくないと認められる会員に対しては, ○○の職権によっても除名その他の処分を行うことができるのである。被告○○の過激な言動も「在特会」という看板が必要だったはずで,被告○○が,被告在特会代表者である○○の意向に反してまで(○○から除名されることを厭わないで)示威活動を自由自在に行うことができたとは考えにくい。被告○○及び被告○○についても同様である。
したがって, 被告在特会と被告○○, 被告○○及び被告○○との間には, 本件活動に関して指揮監督ができる状態にあったということができる。
(4) したがって,被告在特会は,民法715条l項に基づき,被告○○,被告○○及び被告○○の使用者として,同被告らと同様の賠償責任を負う。

3 被告○○の使用者責任
(1) 前記認定のとおり,被告○○が代表を務める主権会は,「支那中共、朝鮮に阿る売国経済人をはじめ, 我が国の国家利益を貶める反日・虐日勢力など靖国の英霊を貶める支那中共代理人勢力と戦う」ことを行動指針とする団体であり,被告在特会と主権会の両方に入会する者も多かったことや,被告○○が被告在特会と共同で行った示威活動2の中心的役割を果たしたことに照らせば,主権会の「事業」もまた,被告在特会と同様,「反日的」な対象に対する抗議活動やその映像の公開にあったということができる。
(2) 被告らのうち, 本件当時,主権会の幹部であったのは, 主権会関西支部支部長であった被告○○,同支部の事務局長であった被告○○, 同支部の幹事であった被告○○である。
被告○○は,主権会関西支部に対しては,被告○○の指示を了解し納得している前提で行う活動であれば,具体的な活動内容の決定は関西支部の幹部に任せでいたものである。
示威活動1の予告映像のタイトルには,「在特会関西」という表記に並んで「主権回復を目指す会」 という表記がされ,平成21年12月4日の当日も,被告らは,自らを「在特会関西」だけでなく「主権回復を目指す会」とも名乗っており,「主権回複を目指す会」と記された幟を掲げていた。この幟は,被告○○が, 主権会の関西支部として活動する際に使用することを許して被告○○に預けていたものであった。
これらの事情に鑑みれば,被告○○は,自身による一定の統制のもとで,被告○○,被告○○及び被告○○に対して,主権会の名称を使用して抗議活動や示威活動を行うことを容認していたことが明らかであって,被告○○は,その直接間接の指揮監督のもと, 被告○○, 被告○○及び被告○○を主権会の事業に従事させていたということができる。
(3) したがって、被告○○は、民法715条1項に基づき,被告○○, 被告○○及び被告○○の使用者として,同被告らと両様の賠償責任を負う。





第7  原告の損害について(争点6に対する判断)について


1 積極的な財産損害(合計16万3140円)
前記認定の事実経過並びに証拠(甲148ないし151,170)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,争点6に関する原告の主張のとおり, 示威活動1により,スピーカーの修補費用4万7040円, 「朝鮮学校への攻撃を許さない!l2・22緊急集会」と題するビラの配布費用670円,示威活動2により課外授業のための国立民俗学博物館入場料4860円,観光バス代及び通行料 10万 9900円,「1月14日の課外授業について」と題する文書の配布費用として670円の支出を余儀なくされた有形損害(合計16万3140円)をそれぞれ被ったものと認められる。

2 無形損害について
(1) 民法710条にいう「財産以外の損害」とは,精神上の苦痛だけに限られるものではなく,社会通念に照らして金銭賠償を相当とする無形の損害全般を指すものと解される。例えば,法人の名誉が侵害された場合,これによる損害については,金銭に見積もることが可能であるとして金銭賠償を認めることが社会通念に照らして相当であるから,民法710条に基づく損害賠償が命ぜられることになる(最高裁判所昭和39年1月28日第一小法廷判決・民集18巻1号136頁) 。
本件活動による原告の名誉毀損についても、無形損害という形で金銭評価すべきことになる。
(2) 学校法人の教育業務に対し集団での示威活動による妨害がされた場合,上記1のような積極的な支出という形で目に見える(有形の)損害が発生すると同時に,財産損害として容易に認識することができない大きな無形の損害が生じる。
前記第1の6に認定のとおり,示威活動1では,当日,喧噪により本件学校の校舎内に著しい混乱が生じ,これによって予定通りの行事や授業ができなくなっている。これによって苦痛を受けたのは,本件学校の児童や教員であるが,学校法人たる原告には損害が生じていないとはいえない。
法人は,生身の人間ではなく,精神的・肉体的な苦痛を感じないため,苦痛に対する慰謝料の必要性は想定し難いが,学校法人としての教育業務を妨害されれば、 そこには組織の混乱,平常業務の滞留,組織の平穏を保つため,あるいは混乱を鎮めるための時間と労力の発生といった形で,必ずや悪影響が生じる(前記第1の7に認定の事実は,学校法人に悪影響が発生した事実を認定したものである。)。混乱の対応のため費やすことになった時間と労力は、積極的な財産支出や逸失利益という形での損害認定こそ困難であるものの,被告らによる業務妨害さえなければ何ら必要がなかった(あるいは他の有用な活動に振り向けることができた)時間と労力なのであって,原告の学校法人としての業務について生じた悪影響であることは疑いがない。
このような悪影響をも損害として観念しなければ,民法709条以下の不法行為法の理念(損害の公平な分担)を損なうことが明らかである。このような悪影響は,無形損害という形で金銭に見積もるべき損害というべきである。すなわち,本件活動による業務妨害により,本件学校における教育業務に及ぼされた悪影響全般は,無形損害として、金銭賠償の対象となる。
(3) 無形損害を金銭評価するに際しては,被害の深刻さや侵害行為の違法性の大きさが考慮される。
ところで,甲第155号証によれば,日本政府は,昭和63年,人種差別撤廃条約に基づき設立された国連の人種差別撤廃委員会において,日本の刑事法廷が「人種的動機(racial mutivation)」を考慮しないのかとの質問に対して, 「レイシズムの事件においては, 裁判官がしばしばその悪意の観点から参照し, それが量刑の重さに反映される」と答弁したこと,これを受けて人種差別撤廃委員会は,日本政府に対し「憎悪的及びレイシズム的表明に対処する追加的な措置,とりわけ関連する憲法民法,刑法の規定を効果的に実施することを確保すること」を求めた事実が認められる。すなわち刑事事件の量刑の場面では,犯罪の動機が人種差別にあったことは量刑を加重させる要因となるのであって,人種差別撤廃条約が法の解釈適用に直接的に影響することは当然のこととして承認されている。
同様に,名誉毀損等の不法行為が同時に人種差別にも該当する場合,あるいは不法行為が人種差別を動機としている場合も,人種差別撤廃条約が民事法の解釈適用に直接的に影響し,無形損害の認定を加重させる要因となることを否定することはできない。
また,前記のとおり,原告に対する業務妨害名誉毀損が人種差別として行われた本件の場合,わが国の裁判所に対し,人種差別撤廃条約2条1項及び6条から,同条約の定めに適合する法の解釈適用が義務付けられる結果,裁判所が行う無形損害の金銭評価についても高額なものとならざるを得ない。

3 示威活動1及び映像公開1に関する無形加害について
示威活動1は,スピーカーや朝礼台の撤去という有形力の行使を伴っており,しかも,それらの物件を撤去が間近に行われる予定であったのに,あえて授業が行われている平日の昼間を選んで行われたものである。その他の一切の事情を考慮すれば, 示威活動1及び映像公開1によって生じた無形損害を賠償するための額としては,500万円が相当である。

4 示威活動2及び映像公開2に関する無形損害について
示威活動2は,主権会及び被告在特会の共催という形で数十名という大人数で組織的に行われたこと、本件学校の授業が行われる平日の昼間を選んで行われたこと,これによって本件学校では課外授業を行うなどのカリキュラム変更を余儀なくさせたことその他の一切の事情を考慮すれば,示威活動2及び映像公開2によって生じた無形損害を賠償するための額としては300万円が相当である。

5 示威活動3及び映像公開3に関する無形損害について
示威活動3のうち北岩本公園発の示威活動は,主権会及び被告在特会の共催という形で数十名という大人数で組織的に行われたこと, 日曜日に行われたとはいえ本件学校の付近で行われたこと,本件仮処分決定の存在を知りながら,これを無視して行われたことその他のー切の事情を考慮すれば,示威活動3及び映像公開3によって生じた無形損害を賠償するための額としては,300万円が相当である。

6 弁護士費用
本件に現れた一切の事情を考慮すれば、弁護士費用としては, 上記3ないし5の無形損害のそれぞれ1割を相当因果関係ある損害として認めるのが相当である。

7 損害額のまとめ
(1) 示威活動1及び映像公開1に関する損害
有形損害    4万7710 円
無形損害    500万円
弁護土費用   50万円
(合計554万7710円)
賠償義務者    被告在特会,被告○○, 被告○○, 被告○○,被告○○,被告○○, 被告○○

(2) 示威活動2及び映像公開2に関する損害
有形損害    11万5430円
無形損害    300万円
弁護士費用   30万円
(合計341万5430円)
賠償義務者    被告在特会, 被告○○, 被告○○, 被告○○,被告○○,被告○○, 被告○○, 被告○○, 被告○○

(3) 示威活動3及び映像公開3に関する損害
無形損害     300万円
弁護士費用    30万円
(合計330万円)
賠償義務者    被告在特会, 被告○○, 被告○○, 被告○○,被告○○,被告○○, 被告○○, 被告○○, 被告○○





第8  差止めの可否について(争点7に対する判断)

1 差止めの法的根拠について
(1) 差止めの訴えとは,不作為義務の履行を求める給付の訴えである。わが国の民法は,不法行為の法的効果を,名誉毀損の場合の名誉回復措置を除き,金銭賠償に限定しているが,これはあくまで不法行為の法的効果として当然に差止請求権が発生するとはしない立法態度にすぎない。もし,不法行為以外の根拠により,ある人が他人に対し不作為義務を負う場合,その人は当該他人に対し,その不作為義務の履行を求める請求権(差止請求権)を有することは当然である。
(2) 不作為義務は, 契約によっても生じるが, 契約がなくとも生じる。例えば,所有権や通行地役権などの物権の侵害行為がされ,それが繰り返されるおそれがある場合に,物権侵害を差し控える不作為義務の履行請求権が物権的請求権として発生する。
不作為義務を発生させるのは物権だけではない。生命,身体,名誉,平穏な日常生活を送る利益などの人格的利益の侵害行為がされ,それが繰り返されるおそれがある場合にも不作為義務は発生するものと解される。
(3) 自然人について,名誉や平穏な日常生活を送る利益が人格的利益として法的保護に値するのと同様,法人についても,名誉や平穏に日常業務を営む利益が法人の人格的利益として法的な保護に値する。法人は,自然人と同様,社会の中で,平穏に様々な日常業務を行い,財を移転し,富を蓄え,社会的評価を形成する存在である。法人の業務や社会的評価も,自然人の人格的利益と同様の法的保護を受けるとしなければ,健全な社会を維持することが不可能となる。
(4) したがって,学校法人である原告は,本件活動によって既に起きた権利侵害(業務妨害名誉毀損)に対しては金銭賠償を求めることができるし,本件活動と同様の業務妨害名誉毀損がさらに起こり得る具体的なおそれがある場合,法人の人格的利益に基づき,被告らに対し, さらなる権利侵害を差し控える不作為義務の履行請求権を取得するのである。

2 被告○○等に対する差止請求の当否について
上記lで述べたところを本件についてみると,被告らが本件仮処分決定の後もこれを無視して示威活動3を行った事実、被告在特会が,示威活動3の直後にそのウェブサイトで「反日教育を推進する犯罪者の巣窟,子どもの未来を奪う児童虐待を継続して行っている朝鮮学校を一日も早く消滅させるため,在特会はこれからもまい進して参ります」という文章を掲載した事実,本件活動後も,被告らの一部が,徳島県職員組合に対する示威活動(被告○○, 被告○○及び被告○○や右京区役所に対する示威活動(被告○○, 被告○○, 被告○○及び被告○○)を,いずれも威圧的・暴力的な態様で行った事実,被告○○が前者に同行してその様子を撮影していた事実, 被告○○及び被告○○が本件学校の移転先(新校舎建設中の場所)にも許可なく立ち入った事実,その際, 被告○○が朝鮮学校を侮辱する言動を行った事実,その様子を被告○○が撮影していた事実に照らせば,本件学校が移転統合された今でもなお, 被告○○, 被告○○, 被告○○, 被告○○及び被告○○並びにこれらの者の活動母体である被告在特会によって,本件学校の移転先において,本件示威活動と同様の業務妨害及び名誉毀損がされる具体的なおそれが認められるから,同被告らには,少なくとも, 主文4項に記載の程度の限度で, 原告に対する権利侵害を差し控える不作為義務を負うものといわなければならない。被告○○についても,上記の被告らとの繋がりがなくなったものとは思われず, 上記の被告らに同行して業務妨害及び名誉毀損に及ぶ具体的なおそれが認められるから,同様の不作為義務を負う。

3 被告○○等に対する差止請求の当否について
被告○○及び被告○○については,本人尋問において原告に謝罪し, あるいは謝罪したいとの意思を明確にしている。また,被告○○は, 平成 22年5月,徳島県職員組合への示威活動を行った被告○○及び被告○○を主権会から除名処分にしているが,弁論の全趣旨によれば,そのころ以降, 主権会と被告在特会とが共同して示威活動をすることがなくなった事実及び被告○○は被告在特会とのつながりが薄くなった事実が認められる。したがって,被告○○及び被告○○の両名によって本件示威活動と同様の業務妨害及び名誉毀損がされる具体的なおそれまでは認められないから,この両名に対する原告の差止請求は理由がない。

4 被告○○に対する差止請求の当否について
被告○○の本人尋問及び弁論の全趣旨によれば,被告○○は本件街宣車の名義人であるものの,その管理及び使用は専ら被告○○が行っており,本件示威活動に本件街宣車が供されたことは本件訴訟に至るまで知らなかったことが認められる。
そうだとすれば,被告○○が本件示威活動のために本件街宣車を提供したとは言い難いのであって, 被告○○の行為により,今後,原告に対する権利侵害がされる具体的なおそれを認めることができないから, 被告○○に対する差止請求は理由がない。

5 北方ジャーナル判決について
被告らは,請求の趣旨4項の差止めは表現行為の事前抑制に当たり, 北方ジャーナル判決が説示する非常に厳格な要件を満たさない限り許されないと主張するが,原告の請求は,被告らによる表現行為そのものを差し止めるものではなく,本件学校の移転先の門扉を起点にした半径200メートルの範囲だけに場所を限定し, かつ, 業務妨害あるいは名誉毀損となり得る表現行為のみを制限するにすぎない。北方ジャーナル判決は, この程度の不作為義務の給付をも違法とするような法理を述べるものではなく,被告らの主張は失当である。




第9 結論


以上の次第で,原告の損害賠償請求は前記第7の限度で理由があるものとして認容し,その余を失当として棄却し, 原告の差止請求は, 前記第8の限度で理由があるものとして認容し,その余を失当として棄却することとし, 主文のとおり判決する。

                                 以上。