朝鮮学校嫌がらせ事件裁判控訴審

最初に、正直に告白します。今回の裁判は、前日まで、京都地方裁判所でやるものと思いこんでいた私です。危なかったです。皆には内緒にしといてください。



3月25日、大阪高等裁判所にて京都朝鮮学校嫌がらせ事件控訴審裁判が執り行われた。
この日は、傍聴券を求めて早めに裁判所に着いたが、傍聴券抽選前のはやい時間から警察が警備の打ち合わせと配置で動き回っていた。しか警察だけではない、多くの裁判所職員が所内に出張って警備にあたっていた。
これら物々しい警備は、昨今の在特会を始めとした「排外主義グループ」関連の「トラブル防止」を念頭においたものと思われる。
そんな中、事前に決められていた場所での傍聴券抽選並んだのは、学校支援者側が最終的に180名ほど。在特会側は10名ほどいたと聞いた。
法廷席は75名と聞いていたので、倍率2倍以上となったが当たり。ここまでくると、どんだけクジ運がいいんだとうっとりする。


法廷に入り見渡すと、在特会等側の一人は確認したが他はわからず。傍聴席のほとんどは学校支援者と思われる。また控訴人席には、徳永弁護士、在特会副会長八木氏と控訴人の一人である中谷氏がおり、学校側は何時もの弁護団が座っていた。
なお、この控訴審では、在特会等側が控訴したことで、本来は、在特会等側を控訴人、控訴側と呼び、学校側を被控訴人、被控訴側と呼ぶが、ややこしいのでそのまま「在特会等側」「学校側」と呼ぶことにする。

裁判官入場で、さっそく確認が始まる。
在特会等側は上申書、控訴理由書、準備書面が出されており、学校側はそれら反論書面となる「控訴答弁書」とそれぞれの書証が出されていた。
そして、双方が陳述を求め、裁判長より10分以内の陳述がされる事になった。

まずは在特会等側の陳述であるが、冒頭から「一審判決はヘイトスピーチの抑止を目指した画期的な判決と言われるが、判決理由ヘイトスピーチにふれたとこはない」と徳永弁護士が述べたとこから始まりひっくり返った。前に在特会会長自称桜井氏が生放送で語っていたのが「一審判決にはヘイトスピーチと書いてないからヘイトスピーチじゃない」という「ガキの言い訳」と同じ言い回しだったからだ。ただ、徳永弁護士はこの後、人種差別撤廃条約の立法を日本が留保しているところから、「原審判決は懲罰的賠償」であるとして、それは日本の法制度では認められていないもので、日本の司法制度での「損害の回復としての被害補償」ではなく、アメリカなどのペナルティとしての損害賠償を認めたのだという主張を展開した。
しかし、その後、在特会等側が行ったヘイトクライムを「政治的主張であり公益目的であった」とする、原審判決で断罪された主張、細かく言えば「在日特権」などを始めとした、出鱈目、妄想、デマに基づく差別扇動行為を「政治的主張」とする論を展開。あげくに朝鮮半島情勢を持ち出し、それら嫌韓感情が差別意識とは別物だとし、在特会等側行為を安易に「差別行為」としてはならないとした。
聞いていて正直辟易とした。徳永弁護士のいう主張は、「レイシストの言い訳」そのものとしか思えない。
あの校門前で在特会等側が行った行為、発した言葉の何処に政治的主張と言えるものがあるのだろう。それらは在特会等側が自らネット上で拡散した映像により、その悍ましさは明確なものであり、幾多の証拠、証言に基づく原審判決で断罪されたものだ。それらを繰り返す呆れた主張は、法廷内でヘイトクライムを隠蔽、過小化する意味でヘイトスピーチと言えるものである。
結局のとこ、在特会等側の陳述では、「懲罰的賠償」以外で目新しいものはなく、そして事件の新たな状況証拠、証言は何もなかった。

結局、10分以内と言いながら13分かかった在特会等側の陳述の後、学校側より朝鮮学園理事長による13分の陳述となった。

その陳述は、一審判決が「被告らが子どもたちのいる校舎に放った怒号や罵詈雑言は「表現の自由」などではく、朝鮮人に対する民族差別と判断された」事により安堵があった事を述べ、事件の経過として学校側は法と警察に事態を委ねたが、その警察が在特会等側の蛮行を止める事ができない消極的姿勢に期待は音を立てて崩れていく心情と、事件による学校側の被害状況、損害の重さを述べ「この判決(原審判決)があの12月の時点で既にあったならば、そして、こうした行為が明白に違法であることや、その人種差別の被害が深刻なものとなることの意味が警察組織にも理解されていたならば、警察官もあのときのような「寛容な対応」に終始するのではなく、子ども達を守る対応をしてくださったのではないか、とも思うのです」と切実な思いを訴えた。


双方が陳述を終えると、在特会等側の徳永弁護士より、学校側より出された「控訴答弁書」への反論を出すために、もう一回、期日の要求があったが、裁判長より「ご意見は受けたまりましたが既に充分議論がなされていると考えています」と一蹴され、朝鮮学校嫌がらせ事件控訴審は結審した。


控訴審判決がどのようなものとなるかについて予想はできるがあくまで予想である。ただ、この控訴審における在特会等の陳述と一回結審を見る限り在特会等の訴えを組むものとは考えられない。判決の構図は、どこまでいっても高裁による原審判決の精査というものになると思われる。

次回、判決は7月8日。



なお、以下は学校側より出された「控訴答弁書」の目次である。「第1 控訴理由書に対する反論」は在特会等側より提出された「控訴理由書」への項目ごとの反論となっており、「第2 被控訴人の主張・原判決の損害認定が適正であること」はそのまま一審判決が適正であるとの答弁書となっており、これらは全体で50ページに及ぶものとなっている。

第1 控訴理由書に対する反論
1 第1 懲罰的賠償、制裁的賠償について」に対する反論
① 無形損害の認定
人種差別撤廃条約「公正かつ適正な賠償」等の意義
③ 小括
2「第2 人種差別撤廃条約と「留保」等について」に対する反論
① 「2 条約の自動執行性」について
② 「3 憲法の人権保障と人種差別撤廃条約の効力」について
③ 「4 人種差別撤廃条約加入に際しての留保」について
④ 「5 国籍による区別について」について
3「第3 威力業務妨害名誉毀損 〜控訴人M…」に対する反論
① 控訴人Mの主張
② 映像公開と示威行為との間には関連共同性が存在すること
③ 現に、映像公開による業務妨害が生じていること
④ 違法性阻却事由に関する主張について
4 「第4 差別的動機と「専ら公益を図る目的」に対する反論
① 原判決の評価の妥当性
② 公益を図る目的ではないことを示唆する他の事情
5「第5 応酬言論の主張について」に対する反論
① はじめに
② 板垣意見書 レイシズムの視点からの分析
6 「第6 差止めの可否について」に対する反論
① 原判決が控訴人N・Hらに対して差止請求を認めた理由
② 控訴人らの示威活動への動機は消滅していない
③ 控訴人らによる示威活動のおそれ、常識を備えた一般平均人を想定をして判断してはならない
④ 小括

第2 被控訴人の主張・原判決の損害認定が適正であること
1 はじめに
2 「無形損害」の判断要素
① 「無形損害」の判断要素
② 法人の「無形損害」と自然人の「慰謝料」の判断要素
3 原判決における損害認定が妥当であること
① 示威活動①および映像公開①について
② 示威活動②および映像公開②について
③ 示威活動③および映像公開③について
4 人種差別撤廃条約と、人格的価値の保護の要請
① はじめに
② 井上論文、司法研修所論文において、人格権侵害の側面が重視されていること
人種差別撤廃条約の推進など
④ 本件学校法人の人格的価値に対する毀損
⑤ 人種差別ならではの特徴〜個人による提訴の困難性
5 控訴人らが得た利益を、無形損害の評価に反映すべきこと
6 慰謝料額算定の定型化の試みからの検討


以上。