M氏裁判 被告側答弁書

以下、紹介するのは原告の訴状に対する、被告C、Dの答弁書である。
訴状と答弁書は対の関係にあり、訴状の項目そのままを答弁書において反論している。この答弁書は、当日現場で何が起こったのかが詳細に語られており、証拠物としてM氏による事件の録音とその書きおこし、後の聞き取り調査記録等を提出している。






答弁書
被告C、D

第1 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。


第2 請求の原因に対する答弁
1 「一事件」について
 被告Dが原告に暴行を加えることがなかった点を除き、全て否認または不知。
被告らが原告に暴行を加える旨を共謀したことはない。被告A、被告Bが原告に電話して本件店舗に呼び出したこともない。
被告Cが原告の顔面を殴打したこともない。原告が本件店舗内に1時間以上留め置かれたこともない。被告Dが被告Eとともに原告を威圧したこともなく、暴行を幇助したこともない。
その余りは不知。

2「二 事件後の経過」について
平成27年1月19日、被告Aらの代理人弁護士が原告に対して、補償した旨の申し入れをしたこと、被告らが「Cさんの裁判を支援する会」など、外国人差別の解消に向けた各種活動を広く展開する者であること、被告Cが事件後しばらく活動を自粛する旨を申し入れたこと、被告Cが2015年4月8日以降に活動を再開したことを認め、その余を否認する。

3 「損害」について
争う。

4 「四」について
争う。


第3 被告D、Cの主張
1 本件の背景
⑴ 被告らはいずれも在日朝鮮人・韓国人に対する所謂ヘイトスピーチ(差別扇動的表現に
反対する、所謂「カウンター運動」に参加している者である。
ヘイトスピーチとは「朝鮮人をぶっ殺せ!」「ゴキブリ朝鮮人!」等と主に「在日朝鮮・韓国人に対しての差別や加害を煽る言動等であり、在特会在日特権を許さない市民の会)が引き起こした京都朝鮮学校襲撃事件(2009年)等を契機に社会的に認知されたものである。「
ヘイトスピーチとは「朝鮮人をぶっ殺せ! 」「ゴキブリ朝鮮人! 」等と主に在日朝鮮・韓国人対しての差別や加害を煽る言動等であり、在特会在日特権を許さない市民の会)が引き起こした京都朝鮮学校襲撃事件(2009年)等を契機に社会的に認知されたものである。 「カウンター運動」とは、このようなヘイトスピーチ及びへイトスピーチを黙認する社会に対して、反対のプラカードを掲げる等して抗議する活動をいう 。
被告Cはこのようなヘイトスピーチを行うことを主目的とする運動団体である上記在特会の元会長・ 桜井誠在特会の宣伝媒体としても利用されているインターネット掲示板まとめサイト「保守速報」に対する裁判の原告であり、その余の被告らは、同裁判の支援者である。
なお、原告もカウンター還動に参加したことがあり、被告Eとともに、カウンター運動団体の1つである「男組」に所属していた。
(2)2014年12月頃、原告は、被告Aがヘイトスピーチを行っている団体の関係者から金銭を受け取っているとの話(以下、「本件噂話」という)を、カウンター関係者に話した。 原告が被告Aにかけた疑惑を端に本件噂話は、関係者の間で噂として広がっていった。
本件噂話は、カウンター運動に参加し活動している被告Aが当のへイトスピーチを行っている者から金銭を受け取っているという内容であるところ、まったく事実無根であり根も葉もないものであるうえに、被告Aの人格や人間性を全面的に否定すると共に、在日朝鮮・ 韓国人への差別と偏見すら呼びかねない極めて悪質かつ卑劣なものであると、カウンター運動関係者には受け取られた。
そこで、原告は本件噂話の発信元となったことを理由にカウンター運動関係者からの信用を失い、先述「男組」からも脱退することとなった。
(3) 本件事件が発生した2014年12月16日、被告らは同日行われていた「保守速報」を相手方とする裁判期日とその報告集会に参加し、その夜は居酒屋等で懇親会を行っていた。
懇親会の最中、午後10時37分に原告から被告Bの携帯電話に着信があった。被告Bが何度か折り返すと、翌17日午前0時43分に電話がなり「被告Aと被告Bに(本件噂話について)謝罪したい」という趣旨であることが分かった。そこで、他のメンバーの同意も得て、 報談会の席に原告を呼ぶ事となり、被告Bが原告を迎えに行くことになった。
その後の状況は、原告が密かに録音した音声データにより明らかであり、以下の記述は全てこれに基づいている。



2本件暴行事件 (1) 同日午前2時頃、原告と被告Bは本件店舗に到着した。すると、原告が本件噂話を流布したことに反発していた被告Cが「なんやの、お前」等と原告に詰め寄ったが、「まあまあまあ、まあCさん」「チョゴリチョゴリ汚れちゃうんで、チョゴリ汚れちゃうんでちょっと」等と被告Bや被告Eらが制止し、2人はすぐに引き離された。
(2) カウンターの中程の席に座っていた被告Dが、「何どうしたの、もう」と原告に声をかけると、被告Dの後ろを通って店の奥へ行く途中の原告が「すいません」等というので、被告Dは「すいませんじゃなくって、 もうAさんとちゃんとしっかり話したほうがいいよ」と発言し、原告と被告Aが話し合って解決するよう促した。
原告と被告A、Bは本件店舗内の奥の席に着いた。被告Dと被告Eはカウンター中程の席に着き、被告Cは原告から最も違い、入口近くの席に座った。被告Bは、「そうしたら、僕、生で」「M、生でいいか。生ビール1本お願いします」等と原告に酒を勧めた。
被告Aは、原告に対し、「で、どうした。(何を)言いたい。 言い分を(言え 」と詰めより、「俺があのブログでカウンター、銭受け取ったカウンターが俺か。俺が受け取ったんか。 つじつまが合うと。俺があれ、銭とった」と、原告が流した本件噂話を否定し、激しく怒りを発した。少し離れて座っていた被告Dは、被告Aをなだめる意味もあって、「Mさんがそういうふうに、Aさんがもらってるって思う理由が全然分からないんだよね。 なんか、その、そういうふうに思うような、なんかほかの情報とか誰かに何か言われたとかっていうのがあるならまだしも、だってあらゆるカウンターの中でAさんにそんなこと思うってあり得ないんじゃない。一番遠いところにいる人だから。一番遠い人なのに、なんでそういうふうに」 と原告を穏やかに諭した。
被告Bは、「Aさんがな、どんなつもりで、お前、カウンター来てると思ってんねん、お前。 お前何で俺にそんなこと言うてん」「お前、絶対許せへん、お前さ」と、差別に苦しむ在日朝鮮人が、どれほど苦しい思いでカウンター運動に参加しているかを、日本人である原告に涙ながらに伝えて理解を訴えた。当事者が興奮していることに気付いた被告Dが「絶対手ださないで」と注意すると、被告Bは「絶対手出さへん。 言わして、言わして。お前な、言わして、お前な。」と応じている。原告から最も離れた席についた被告Cは、これらの会話に加わらず「Dさん何飲む? 」と被告Dに尋ね、被告Dは、「紅茶がいいな」と応じている)。
(3)やがて、被告Aが激高し、「いや、疑ったことがって、どういうことやねん。 何やねん。なんか悪うないんかい、こら」と言いながら、原告の頬を叩いた。 被告Bは「やめてください。やめてください。やめてください。」と言いながら、慌てて被告Aを止めた。
物音を聞いた被告Eは「あのう、もめるんだったら外で、外でやって」と言った。被告Dは、被告Aが原告の頬を叩いた事には気付かなかったものの、物音を聞き、原告と被告Aが立ち上がって揉み合いをするのを見て騒ぎになると思い、「2人で外行ったほうがいいんじゃない」と、本件店舗外で二人による話しあいを促した。 また、本件店舗のマスターも「それはつぶしたらあかんで」「それはええやつやから」と店の什器が壊れることを心配したため、被告Eは再び「外で、外で」と言い、被告Dも 「そもそも2人で話すって言ったんだから、ここにいないで、2人で外に出て話せばいいじゃない」と本件店舗外で.2人で話すようさらに促した。被告Bも「表出て」と二人を促し、「ごめんなさい、マスター、すいませんでした」店主に謝罪した。
被告Dは「いや、2人で話してきて」と重ねて本件店舗外で話し合って解決するよう求め、被告Aは「マスター、すいませんでした」と言って店外に出た。
この間、被告Cは、原告から最も離れた席にいたため、やりとりの詳細を知らず、被告Aの怒っているような声を聞いただけだった。
(4) 原告と被告Aが本件店舗外に出て、被告Aが原告を何度か殴りつけた。この時点では、被告D、被告Cは、店外で被告Aが原告を殴っていることに全く気付かなかった。
被告Bは途中で店外に出て「僕のことはいい。 僕のことはいい」「ちょっと一回、ちょっと」「ちょっとはけろ。 ちょっとはけろ」等と言いながら被告Aを止め、原告に対し、店内に入るよう促した。
1人で本件店舗内に戻ってきた原告に対して、被告Dは、「(被告Aとの)話終わった? 」 と尋ねた。これに原告は「外でBさんが話してます」 と応じた。
被告Cは、原告を気遣い、「まあ殺されるなら(喧嘩になるなら) 入ったらいいんちゃう」 と店内に入るよう促した。 他方、被告Dは当事者同士で語し合って解決すべきだと考えて 「まあでも、話終わってないなら行ったほうがいいんじゃない?」と、さらに2人だけで外に出て話し合うよう促したため、原告は再び店外に出た。
原告が本件店舗内に一旦戻ったとき、原告は、被告Cや被告Dに助けを求める発言をしていない。被告Cは、原告が被告Aに殴られていることに全く気付かなかった。 被告Dは、原告の様子等から1発くらい殴られたのかもしれないな」と思ったものの、2人で話し合えば仲直りできるし、そうするべきだと思っていたので、当事者同士の解決に委ねたのである。
(5) 被告Dは、店を出る際には原告の姿を見ておらず、結局本件事件に気付かないまま、深夜3時頃にはホテルに戻った。
被告Cが店を出た際には、原告と被告Aは座って話をしており、被告Cもまた、本件事件に気付かず帰宅している 。


3 被告らに不法行為が成立しないこと
(1) 被告らに暴行の共謀がないこと
2に記載した当日のやりとりからも、被告らの間に暴行の共謀がなかったことは明らかである。
すなわち、被告らは被告Cを当事者とする裁判期日後の懇親会のために集まったに過ぎず、原告は被告Aに対して自己の流布した虚偽の噂について釈明するために姿を見せたに過ぎない。
被告Dは、「すいませんじゃなくって、 もうAさんとちゃんとしっかり話したほうがいいよ」と発言し、原告と被告Aが語し合って解決するよう促している。当事者が興奮していることに気付いた被告Dが「絶対、手をださないで」と注意すると、被告Bは「絶対手出さへん。 言わして、言わして」と言いながら被告Aを止めているし、物音を聞いた被告Eは「あのう、もめるんだったら外で、外でやって」と言い、被告Dも、物音を聞いて騒ぎになると思い、「2人で外行ったほうがいいんじゃない」「そもそも2人で話すって言ったんだから、ここにいないで、2人で外に出て話せばいいじゃない」と外で二人に話すようさらに促している。
これらのやりとりから、被告Aを除いた被告らは、原告が流布した本件噂話について、本件噂話の被害者である被告Aと原告とが話し合って解決するよう求めていた事が明らかであって、被告らの間に暴行の共謀は存在しなかった。
なお、原告代理人のT弁護士も、「B氏がM氏(原告)を呼び出した際、B氏がこのような『リンチ事件』の発生を予見していたかどうか分かりません」と述べており、被告らの間に事前の共謀がなかったことを認めている。
(2) 被告Cに不法行為が成立しないこと
原告は、店に入った際に被告Cが 「問答無用で右手拳で原告の顔面を殴打した」と主張する。
しかし、前記のとおり、被告Cは「なんやのお前」等と原告に詰め寄ったが、「まあまあまあ、まあCさん」「チョゴリチョゴリ汚れちゃうんで、チョゴリ污れちゃうんでちょっと」等と被告Bや被告Eらに制止され、すぐに引き離されている。
この点、事件直後の2014年12月22日に「コリアNGOセンター」が行った聞き取りにおいて、原告は、「行ったら、まあ、まず最初にCさんに胸ぐらを捕まれて、で、それでEさんが止めて、で、カウンターだけのバーだったんですけれども、奥のほうに通されました。 で、僕を挟んで、BとAさんが座って、で、まあいろいろ話をしていて」と供述するだけで「顔面を殴られた」とは供述していない。(現場録音テープにも殴られた音は入っておらず(被告Aによる暴行の音は鮮明に記録されている)、客観的証拠からも、「顔面を殴られた」事実が存在しないことが明瞭である。原告本人が供述しておらず、客観的証拠にも整合しない「顔面を殴られた」事実を認定することは到底許されない。
よって、被告Cが原告に暴行を加えた事実はないから、同被告に不法行為は成立しない。
(3) 被告Dに不法行為が成立しないことこれまで述べた経緯から明らかであるとおり、被告Dは一貫して問題を当事者間で話し合って解決するように求めただけである。 被告Aの原告に対する暴行は、店外で行われており、店内で酒を飲んでいたに過ぎない被告Dが、「原告を威圧した」「暴行を幇助した」という事実はあり得ない。
(4) 小括
よって、被告D、被告Cは、原告に対して、如何なる法的責任も負わない。


4 事件後の状況について
(1)2015年1月19日、被告Aから受任を受け、被告C、被告Bの意向も受けた代理人弁護士が、原告の当時の代理人である弁護士に、補償交渉のための連絡をした。
(2)2015年1月27日、上記代理人弁護士は、原告代理人弁護士に被告らの反省文を送付した。 また、同年同月29日、被告代理人は原告代理人に宛て「告訴状提出を経た後で構いませんので、改めて、直接の謝罪の機会の実現にご尽力を頂けないでしょうか」等とするFAXを送付した。
さらに、被告代理人は、同年1月30日には日程調整の連絡文書も送付している。
被告Cもこの間、2015年2月3日付で、本件事件を気づかないままであったこと等に関する道義的責任を原告に対して謝罪する詫び状を書き、関係者を介して原告に交付している。
(3)刑事告訴がなされた後の2015年2月24日、被告代理人は、被害弁償金として金100万円が用意できた旨の文書を原告代理人に送付した。原告代理人は、「申し出の件については、本人とも十分に話し合ってお返事したいと思います」と返答した。
(4)2015年4月8日、「Cさんの裁判を支援する会」は、原告代理人に対し、「このまま自粛を続けている事は裁判支援を行っていくうえで支障が大きいと判断し、Cさんに最低限の活動を再開していただきたいと考えています」等とする文書を送付した。
(5)2015年6月17日、原告代理人は、被告らの活動再開を遺憾とする原告作成の平成27年6月15日付文書を原告代理人に送付した。
被告代理人は、これに対し「ヘイトスピーチに晒された被害当事者の心情としてご容赦願いますようMさんにお伝え下さい」等とする文書を原告代理人に送付した。
(6)2016年2月1日、被告代理人は、原告代理人に対し「ご指示頂ければ送金可能な100万円を先にご受領頂くようご検討願えませんでしょうかとする文書を送付した。
(7)2016年3月1日、被告A及び被告Bに対し、略式罰金の刑事処分が確定した。 被告Cは嫌疑なしの不起訴処分となった。
(8)2016年5月12日から14日にかけて、T弁護士(現在の原告代理人であるが、この時点では当時の被告代理人に受任通知を提出していない)が、現場録普テープの書き起こしや代理人間のやりとり等の資料をインターネット上に公開した。
(9)2016年5月16日、当時の被告代理人は、当時の原告代理人に対し、前項(8)の事態について l先生はこのような状況をご存じでしょうか。 是非とも事実確認をいただき、M氏に対して適切な指導と管理をお願いしたいです。 ネット上において不正確な情報が独り歩きしており、解決からかけ離れていく格好ですと抗議するとともに、被告Cについて「原告の気持ちを慮らず、配慮の欠けた対応があったことについて、謝罪し真摯に反省する」という道義的實任を認める条項を含む示談書案を提示した。
(10)2016年5月17日、当時の原告代理人より当時の被告代理人に宛てて、被告訴人3名について、検察官の処分結果が示され、これをもって通知人の代理人としての職務は終了しましたので、御連絡させていただきます」との文書が送付された。
(11) 以上のとおり、被告らは誠実に示談交渉を行っており、その交渉過程に何の瑕庇もない。むしろ、交渉中であるにも関わらず、突如、別の弁護士を通じて裁判の証拠等をインターネット上に公開した原告の行動こそが「解決からかけ離れていく格好」を作った原因であるという他ない。

第4 結論
以上述べたところで、被告D、被告Cがなんら不法行為貢任を負わないことは証拠上明白であり、早急に弁論を分離し、棄却判決を下すことを求める。
以上。