朝鮮学校嫌がらせ事件裁判判決 理由2

(判決 理由1より続き)


4  示威活動3及び映像公開3について

(1)業務妨害となること
示威活動3は,示威活動1,2とは異なり, 日曜日に行われたものであり,目に見える形で本件学校における教育業務に及ぼした悪影響としては, 本件学校に休日出勤していた女性職員が帰宅せざるを得ず,また,他校でサッカーの試合を行っていた児童たちも本件学校に帰校できなかったというものにとどまる。
しかし,日曜日に行われたとはいえ3度目の示威活動が行われた事実, しかも,それが本件仮処分決定が示威活動を禁止した範囲にまで及んだ事実は,本件学校の児童,その保護者及び教職員に対し, 被告らがいつまた本件学校周辺で,大声で本件学校を侮蔑する集団での示威活動に及ぶか分からないとの恐怖心を与えるものである。これにより,児童が本件学校に行くことをためらい,また,保護者も自分の子を本件学校に通学あるいは入学させることを躊躇することも考えられるし、本件学校の教職員は,警戒態勢を取るための心身の負担に曝され続けるのであって,自に見えない形で本件学校における教育業務に与えた悪影響は非常に大きいものといわなければならない。したがって,示威活動3は,日曜日に行われたものの,やはり示威活動1,2と同様,原告の本件学校における教育業務を妨害する不法行為に該当する。

(2) 名誉毀損となること
示威活動3及び映像公開3は,本件学校が本件公園を50年間奪い取っていたこと, このことにより日本の子どもたちの笑い声を奪ったこと,本件学校が北朝鮮のスパイを養成していること,本件学校が無認可で設置されたこと,本件学校は学校ではないことを,不特定多数人に告げるという行為であり,原告の学技法人としての名誉を著しく損なう不法行為である。



5 本件活動による業務妨害及び名誉毀損人種差別撤廃条約上の人種差別に該当すること 

(1) 活動の意図
ア 本件活動における被告らの発言を含め,前記認定の本件の事実経過全体を総合すれば,被告○○被告○○被告○○被告○○は, かねてから,在日朝鮮人が過去に日本社会に害悪をもたらし,現在も日本社会に害悪をもたらす存在であるとの認識を持ち,在日朝鮮人を嫌悪し,在日朝鮮人を日本人より劣位に置くべきである,あるいは, 在日朝鮮人など日本社会からいなくなればよいと考えていたこと,つまり,在日朝鮮人に対する差別意識を有していたものと認められる。
イ また,前記認定の事実経過に照らせば,上記被告らは,自分たちの考えを表明するための示威活動を行うとともに,自分たちの考えを多数の日本人に訴えかけ,共感を得るため,自分たちの言動を撮影した映像を公開するという活動もしていたが,本件学校が校庭代わりに本件公園を違法に占拠している事実を把握するや,その不法占拠を口実にして本件学校に攻撃的言動を加え, その刺激的な映像を公開すれば, 自分たちの活動が広く世に知れ渡ることになり,多くの人々の共感を得られるはずだと考え,示威活動1に及んだものと認められる。
上記被告らは,示威活動1において,本件公園の違法な占用状態を(行政を通じてではなく, いわば私人による自力救済として)解消する意図で活動したかのように装っている。しかし,それが表面的な装いにすぎないことは,その映像自体から容易にうかがい知れるし, 被告○○が,京都市の担当者から平成22年1月か2月にはサッカーゴール等の物件が自発的に撤去される予定であると聞いていたのに, 「朝鮮人を糾弾する格好のネタを見つけた」と考え,自分たちの活動を世間に訴える目的で示威活動1を敢行したことからも明らかである。
ウ 示威活動1を発端としてなされた本件活動が,全体として在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図の下に行われたことは,前記認定の事実経過に照らして,明らかである。
エ なお,被告在特会と主催会とでは異なる行動指針を有しているが(認定事実2と3) ,本件活動での被告らの言動に関する限り,両者の思想や意図の違いをうかがい知ることはできない。

(2) 差別的発言
ア 被告らは、示威活動1において,朝鮮総連関係者を「朝鮮ヤクザ」と罵り,朝鮮学校について「日本からたたき出せ」「ぶっ壊せ」と言い,在日朝鮮人全般について「端のほう歩いとったらええんや」「キムチ臭いで」とあざけり,さらに「約束というのはね,人間同士がするもんなんですよ。人間と朝鮮人では約束は成立しません」などと在日朝鮮人が人間ではないかのように説明している(番号5,6,8,10, 11)。番号11の発言は,警察官に対して発せられたものであるが,示威活動1における被告らの言動は,すべて映像で公開することを予定してされたものであり, 実際に映像が公開されてもいるから,被告○○が 不特定多数の映像視聴者向けに流布した発言というべきである。
イ 被告らは, 示威活動2においては, 朝鮮学校を「日本から叩き出せ」「解体しろ」と言い,在日朝鮮人全般について,戦後の混乱期にわが国で凶悪犯罪を犯して暴れまくったと言い, 「不逞な朝鮮人を日本から叩き出せ」として日本社会で在日朝鮮人が日本人その他の外国人と共存することを否定し, さらには「保健所で処分しろ,犬の方が賢い」などとあざけり,在日朝鮮人が犬以下であるとするのである(番号13ないし16 )。
ウ 被告らは, 示威活動3においては,朝鮮学校を「卑劣,凶悪」と言い,在日朝鮮人について「ゴキブリ, ウジ虫, 朝鮮半島へ帰れ」と言い放っている(番号21,24)。
エ さらに,甲第8ないし10号証によれば,上記アないしウの発言以外にも, 被告○○被告○○を始めとする様々な参加者によって「朝鮮部落,出ろ」「チョメチョメするぞ」(示威活動1), 「ゴミはゴミ箱に, 朝鮮人朝鮮半島にとっとと帰れー」「朝鮮人を保健所で処分しろー」「糞を落としたらね,朝鮮人のえさになるからね,糞を落とさないでくださいね」(示威括動2),「朝鮮メス豚」「朝鮮うじ虫」「日本の疫病神, 蛾,うじ虫,ゴキブリは,朝鮮半島に帰れー」(示威活動3)等の在日朝鮮人一般に対する差別的な発言や,「ぶち殺せー」といった過激な大声での唱和が行われた事実が認められる。
オ 上記アないしエの発言は,いずれも下品かつ侮蔑的であるが,それだけでなく在日朝鮮人が日本社会において日本人や他の外国人と平等の立場で生活することを妨害しようとする発言であり,在日朝鮮人に対する差別的発言といって差し支えない。
(3) 以上でみたように,本件活動に伴う業務妨害名誉毀損は,いずれも,在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図の下,在日朝鮮人に対する差的発言を織り交ぜてされたものであり,在日朝鮮人という民族的出身に基づく排除であって,在日朝鮮人の平等の立場での人権及び基本的自由の享有を妨げる目的を有するものといえるから,全体として人種差別撤廃条約1条l項所定の人種差別に該当するものというほかない。
したがって,本件活動に伴う業務妨害名誉毀損民法709条所定の不法行為に該当すると同時に,人種差別に該当する違法性を帯びているということになる。




6 名誉毀損としての違法性又は責任の阻却事由について
(1)事実を適示する表現行為の場合
わが国の判例理論によれば,他人の名誉を損なう表現行為であっても,摘示事実が公共の利害に関する事実であり, 専ら公益を図る目的で表現行為がされ,かつ,適示事実が真実であることが証明されたときは,当該表現で名誉を低下させたことは違法でないとされる(違法性の阻却)。また,仮に,摘示事実が真実であることが証明されない場合でも,これを真実と信じるについて相当の理由があるときには,名誉を毀損したことについて過失がなく、やはり不法行為は成立しないものと解される(最高裁判所昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号11 1 8頁)。
(2) 論評表現の場合
わが国の判例理論によれば,ある事実を摘示した上での論評表現が他人の名誉を損なう表現行為に当たる場合,摘示された前提事実(直接的な事実の摘示がない場合は黙示的に摘示されたとみられる事実)が公共の利害に関する事実であり,専ら公益を図る目的で表現行為がされ,前提事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,論評表現としての域を逸脱したものでない限り,当該論評表現で名誉を低下させたことは違法でないとされる(違法性の阻却)。
また,仮に,前提事実が真実であることが証明されない場合でも,これを真実と信じるについて相当の理由があるときには名誉を毀損したことについて過失がなく,やはり不法行為は成立しないものと解される(最高裁判所平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号380-1頁)。
(3) 本件へのあてはめ
上記判例法理によって免責されるのは。名誉毀損表現が事実摘示であろうが論評であろうが,専ら公益を図る目的で表現行為がされた場合だけである。では, 本件活動における上記2ないし4の名誉毀損表現が専ら公益を図る目的でされたのかといえば,そう認定することは非常に困難である。なぜなら,本件示威活動は,本件学校の付近で拡声器を用い又は大声で行われたものであり,示威活動1では,本件学校が本件公園に設置していたサッカーゴールを倒し,スピーカーの配線を切断し,朝礼台を移動させるという実力行使を伴うものであり,示威活動2,3では街宣車を伴うという威圧的な態様によって行われたものである。公益を図る表現行為が実力行使を伴う威圧的なものであることは通常はあり得ない。
加えて, 前記のとおり, 本件活動は, 全体として,在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図の下,在日朝鮮人が日本社会で日本人や他の外国人と平等の立場で生活することを妨害しようとする差別的発言を織り交ぜてされた人種差別に該当する行為であって,これが「専ら公益を図る」目的でされたものとは到底認めることはできない。
したがって本件活動における名誉毀損判例法理により免責される余地はないものといわなければならない。
なお,上記2ないし4で名誉毀損であると認定したものは,事実の摘示を伴うものに限定している。それ以外の被告らや本件示威活動参加者の発言や表現について,被告らは、意見の表明であるというが,意見や論評というよりは,侮蔑的な発言(いわゆる悪口) としか考えられず,意見や論評の類として法的な免責事由を検討するようなものとは認められない。
7 応酬的言論の法理による免責の有無
被告らは,番号7,8,10,15及び21の各発言については, 別表甲の「被告らの主張」欄のとおり,本件学校関係者の態度や発言に対する応酬的な悪態にすぎないと主張する。
確かに,自己の正当な利益を擁護するため, やむをえず他人の名誉を損なう言動を行った場合は,それが当該他人による攻撃的な言動との対比で,方法及び内容において適当と認められる限度を超えない限り違法性が阻却されるものと解される(最高裁判所昭和38年4月16日第三小法廷判決・民集17巻3号476頁)。
しかし,被告らは,招かれてもいないのに本件学校に近づき,原告の業務を妨害し,原告の名誉を貶める違法行為を行ったものである。被告らの違法行為に反発した本件学校関係者が被告らに敵対的な態度や発言をしたことは否定できないが,被告らは,自らの違法行為に上ってそのような反発を招いたにすぎないから,上記法理によって免責される余地はない。





第5 被告らの共同不法行為責任について(争点4に対する判断)


l 民法719条l項前段の意味内容
民法719 条1 項前段(以下「前段」という。)は,「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」と規定する。
複数の行為者の違法な行為によって損害が発生した場合,民法の根本原則である私的自治の原則から導かれる自己責任の原則からすれば,行為者はそれぞれ自己の行為によって生じた損害についてのみ責任を負えばよく,他の行為者の行為によって生じた損害についてまで責任を負うべき義務は生じない。
しかし,複数の行為者の行為によって損害が発生する場合,その行為者相互の関係,各人の関与の態様,各人の行為の内容,被害の態様,因果関係の系列などは千差万別であり,被害者側がそれらの詳細を把握して立証することは困難を伴うことが多い。
前段の規定は,そのような被害者側の証明の困難性を考慮し,被害者保護の観点から、複数の行為者の行為が互いに関連する共同の行為であると評価できる場合, 被害者は、その共同の行為と結果との間の因果関係を立証すれば,共同行為者の一人一人に対し,共同行為によって発生した結果の全部について賠償を求めることができ,共同行為者は各人の行為と結果との間の個別的因果関係の不存在を理由とする減免責を主張することができない旨を定めたものと解するのが相当である。
このように, 前段の規定は, 被害者保護の観点から,複数の行為の関連共同性を要件とすることによって, 自己責任の原則を修正し,共同行為者の各人に対して共同行為による結果の全部責任を負わせるとしたものである。
そうすると,ここでいう関連共同性については, 行為者間の主観的な共謀関係があることまで必要ではなく,結果の発生につき各行為が客観的に関連し共同していることで足りるが,その各人の行為が,結果との関係で社会観念上一体をなすものと認められる程度の緊密な関連があることを必要とするものと解すべきである。

2 本件示威活動と本件映像公開の行為の関連共同性
本件示威活動と本件映像公開とは,加害行為としては態様が異なる行為である。例えば,示威活動1は喧噪によって授業を妨害する行為であるが,映像公開1自体は,現場で授業を妨害する行為ではない。
しかし,名誉毀損行為としてみたときは,本件示威活動と本件映像公開は密接不可分の加害行為であって,示威活動1による名誉毀損損害と映像公開1による名誉毀損損害を峻別して認定することは困難である。
また, 学校を攻撃対象とする加害行為がされた場合,名誉毀損による無形損害と同時に, 業務妨害によっても大きな無形損害が発生する。業務妨害によって生じる無形損害は, 示威活動の日に生ずる授業の混乱のみではない。後日にも,財産的損害として金銭に見積もることが容易でない学校運営上の様々な支障が継続的に発生するのである。そして,本件映像公開は,インターネットを通じ,不特定多数人に継続的に本件示威活動の様子を開示し続けるというものであり,名誉毀損業務妨害による無形損害を日々増幅させるという形で,本件示威活動と密接に関係しているのである。
したがって,示威活動1と映像公開1,示威活動2と映像公開2,示威活動3と映像公開3は,それぞれが関連共同性のある共同の行為いうべきであり,例えば,示威活動1の不法行為者は,映像公開1に関与していないとしても,示威活動1及び映像公開1によって生じた損害全体について賠償責任を負うことになる。

3 被告○○被告○○被告○○被告○○の責任について
被告○○被告○○被告○○被告○○の4名(以下「被告○○ら4名」という。)は,前記認定のとおり, 3日にわたって行われた本件示威活動のいずれにも参加し,かつ,主導的に活動に関与したことは明らかである。
したがって,被告○○ら4名は,示威活動1及び映像公開1によって生じた損害,示威活動2及び映像公開2によって生じた損害,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害のいずれについても,損害全部の賠償責任を負う。
なお,それぞれの示威活動の中の被告ら各人の行動は,関連共向性のある行為の一部を構成している。この場合,自分が実際に行った行為による損害しか賠償しないという主張は許されないから,関連共同性として一括りにすべき示威活動の一部に関与した者は,範囲内の行為から生じた損害全部の賠償責任を負うことになる。
例えば,事前の打合せがなかった示威活動1における被告○○によるスピーカーの損壊行為について,示威活動1に参加した他の被告らは,被告○○がそういう行動をとることを聞いてもなかったし知りもしなかったと抗弁して,被告○○の損壊行為によって生じた損害の賠償責任を免れることはない。
さらに,被告○○は,示威活動3では,別働隊として四条での示威活動を指揮したものであるが, 示威活動3は北岩本公園発の示威活動も四条での示威活動も,朝鮮学校を糾弾する姿を世間に訴える意図の下に, 同じ日に,一体の示威活動として行われたのであり,それぞれによって生じた原告の損害というものを別々に認定判断することも困難であるから,それら示威活動相互間には関連共同性が認められる。したがって,北岩本公園発の示威活動に参加した者は,民法719条1項の適用上,四条での示威活動(及び映像公開3)による
損害の賠償責任を免れることができない。

4 被告○○の責任について
前記認定の事実経過及び被告○○ら4名の捜査機関に対する供述調書(甲49ないし54,80,121,125及び130) によれば, 被告○○と被告○○ら4名は,主義主張を同じくする仲間であり,被告○○が被告○○ら4名の広報担当としての役割を果たしていた事実が明らかである。すなわち,被告○○は,被告在特会や主権会の主義主張に共感し,その活動を世間に知らしめるため,本件示威活動の様子を撮影し,その映像を公開していたものと認められる。
したがって,被告○○は,本件活動の全部に加わったことになるから,被告○○ら4名と同様の賠償責任を負う。被告○○は,北岩本公園発の示威活動の撮影と映像公開には関与していないが、そうだとしても,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害全部の賠償責任を負うことは,上記3のとおりである。
なお, 被告らは,撮影した映像をありのままに公開する被告○○の行為は,不法行為を構成しないかのような主張をしているが,それは全くの独自の見解であって失当である。

5 被告○○の責任について
被告○○は,示威活動2及び北岩本公園発の示威活動を自ら企画し,かつ参加もし,街宣車に乗って現場を指揮し,拡声器を用いて多くの発言をし,示威活動の中心的役割を果たしたものである。また,被告○○は、 示威活動2では被告○○が公開した映像を,北岩本公園発の示威活動では同行させた主権会のカメラマンが公開した映像を,それぞれ主権会のウェブサイトでも閲覧できる状態にしているのである。前記認定に照らせば,被告○○は,四条での示威活動が行われることを認識していなかったものと認められるが,上記のとおり,北岩本公園発の示威活動と四条での示威活動との聞には関連共同性が認められる結果,四条での示威活動及び映像公開3による損害の賠償責任を免れることはできない。
したがって,被告○○は,示威活動2及び映像公開2によって生じた損害,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害のいずれについても,損害全部の賠償責任を負う、(さらに, 後記のとおり,被告○○は,結局,民法715条1項に基づき,直接には関与していない示威活動1及び映像公開1による損害の賠償責任を負う。)。

6 被告○○の責任について
前記認定のとおり,被告○○は, 示威活動2及び北岩本公園発の示威活動に参加し,街宣車に乗り込み,被告○○が書いたメモをマイクを使って読み上げるなどの行動をとっており,これらの示威活動に主体的に関与し,他の参加者を扇動するという役割を担っていたのであり, 示威活動2及び映像公開2によって生じた損害,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害のいずれについても,損害全部の賠償責任を負うものである(被告○○が四条での示威活動やその映像公開がされることを予め知っていたのかどうかは証拠上明らかではないが,上記のとおり,四条での示威活動と北岩本公園発の示威活動との間には関連共同性が認められるから,被告○○は,四条での示威活動によって生じた損害を含め,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害全部の賠償責任を負う。)。

7 被告○○について
被告○○は,示威活動2及び北岩本公園発の示威活動に参加したものである。
被告○○は,被告在特会の副会長であり,また執行役員として地方支部運営の任命や解任を行う権限を有していたから,これらの示威活動に参加するについては,当然,事前に被告○○らと打合せを行っていたものと考えられ,また,四条での示威活動やその映像公開が行われることも予め知っていたものと考えられる。したがって, 被告○○は, 示威活動2及び映像公開2によって生じた損害,示威活動3及び映像公開3によって生じた損害のいずれについても,損害全部の賠償責任を負うことは明らかである。





第6 使用者責任について(争点5に対する判断)


1  民法715条1項に基づく使用者責任が認められるには, 不法行為が「ある事業のために他人を使用する者」の事業の執行について行われる必要がある。ここでいう「ある事業のために他人を使用する」関係とは,指揮監督できる状態で当該事業に他人を従事させるという関係で足り,その他人と使用者との間に雇用・委任等の契約関係までは必要がないと解されるし,ここでいう「事業」とは継続的な事業であるか一時的な事業であるのか,営利事業であるのか非営利事業であるのかも問わないものと解される。
他人を使用することで事業活動の範囲を拡大した使用者は,事業拡大に伴って生じた危険拡大に対しても責任を負うべきだという理念を前提として,民法715条が立法されているからである。

2 被告在特会使用者責任
(1) 前記認定のとおり,被告在特会は、 在日朝鮮人を特権的に扱うことを否定することを標榜する社団であり,設立当初から,街頭での抗議活動や示威活動を行い,その様子を撮影した映像を公開して会員数を増加させてきたものである。本件活動のような街頭での示威活動やその映像の公開は、被告在特会の本来的な「事業」である。実際にも本件映像公開によって, 被告在特会の全員数は飛躍的に増加したのである。
(2) 示威活動1についてみると,公開された予告映像の題名に「在特会関西」と記載され,平成21年12月4日の当日も,被告○○を始めとする被告らは,自らを「在特会関西」と名乗ったものである。また,被告○○は,示威活動1の報告文を被告在特会のウェブサイトに掲載したものである。
さらに,甲第 59,60号証によれば、被告○○は、その自らのプログやその後の示威活動においても,示威活動1が被告在特会の活動であることを前提とする発言を行っていることが認められる。
したがって,本件活動は,被告在特会の事業そのものであったというべきである。
(3) 被告らのうち, 本件当時,被告在特会の幹部であったのは,関西支部長であった被告○○, 関西支部会計であった被告○○, 副会長の被告○○である。
前記認定のとおり, 被告在特会においては,支部の活動は基本的にその自主性に任されているが,会長である○○が直接指示を出すこともあり,また,被告在特会の会員としてふさわしくないと認められる会員に対しては, ○○の職権によっても除名その他の処分を行うことができるのである。被告○○の過激な言動も「在特会」という看板が必要だったはずで,被告○○が,被告在特会代表者である○○の意向に反してまで(○○から除名されることを厭わないで)示威活動を自由自在に行うことができたとは考えにくい。被告○○及び被告○○についても同様である。
したがって, 被告在特会と被告○○, 被告○○及び被告○○との間には, 本件活動に関して指揮監督ができる状態にあったということができる。
(4) したがって,被告在特会は,民法715条l項に基づき,被告○○,被告○○及び被告○○の使用者として,同被告らと同様の賠償責任を負う。

3 被告○○の使用者責任
(1) 前記認定のとおり,被告○○が代表を務める主権会は,「支那中共、朝鮮に阿る売国経済人をはじめ, 我が国の国家利益を貶める反日・虐日勢力など靖国の英霊を貶める支那中共代理人勢力と戦う」ことを行動指針とする団体であり,被告在特会と主権会の両方に入会する者も多かったことや,被告○○が被告在特会と共同で行った示威活動2の中心的役割を果たしたことに照らせば,主権会の「事業」もまた,被告在特会と同様,「反日的」な対象に対する抗議活動やその映像の公開にあったということができる。
(2) 被告らのうち, 本件当時,主権会の幹部であったのは, 主権会関西支部支部長であった被告○○,同支部の事務局長であった被告○○, 同支部の幹事であった被告○○である。
被告○○は,主権会関西支部に対しては,被告○○の指示を了解し納得している前提で行う活動であれば,具体的な活動内容の決定は関西支部の幹部に任せでいたものである。
示威活動1の予告映像のタイトルには,「在特会関西」という表記に並んで「主権回復を目指す会」 という表記がされ,平成21年12月4日の当日も,被告らは,自らを「在特会関西」だけでなく「主権回復を目指す会」とも名乗っており,「主権回複を目指す会」と記された幟を掲げていた。この幟は,被告○○が, 主権会の関西支部として活動する際に使用することを許して被告○○に預けていたものであった。
これらの事情に鑑みれば,被告○○は,自身による一定の統制のもとで,被告○○,被告○○及び被告○○に対して,主権会の名称を使用して抗議活動や示威活動を行うことを容認していたことが明らかであって,被告○○は,その直接間接の指揮監督のもと, 被告○○, 被告○○及び被告○○を主権会の事業に従事させていたということができる。
(3) したがって、被告○○は、民法715条1項に基づき,被告○○, 被告○○及び被告○○の使用者として,同被告らと両様の賠償責任を負う。





第7  原告の損害について(争点6に対する判断)について


1 積極的な財産損害(合計16万3140円)
前記認定の事実経過並びに証拠(甲148ないし151,170)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,争点6に関する原告の主張のとおり, 示威活動1により,スピーカーの修補費用4万7040円, 「朝鮮学校への攻撃を許さない!l2・22緊急集会」と題するビラの配布費用670円,示威活動2により課外授業のための国立民俗学博物館入場料4860円,観光バス代及び通行料 10万 9900円,「1月14日の課外授業について」と題する文書の配布費用として670円の支出を余儀なくされた有形損害(合計16万3140円)をそれぞれ被ったものと認められる。

2 無形損害について
(1) 民法710条にいう「財産以外の損害」とは,精神上の苦痛だけに限られるものではなく,社会通念に照らして金銭賠償を相当とする無形の損害全般を指すものと解される。例えば,法人の名誉が侵害された場合,これによる損害については,金銭に見積もることが可能であるとして金銭賠償を認めることが社会通念に照らして相当であるから,民法710条に基づく損害賠償が命ぜられることになる(最高裁判所昭和39年1月28日第一小法廷判決・民集18巻1号136頁) 。
本件活動による原告の名誉毀損についても、無形損害という形で金銭評価すべきことになる。
(2) 学校法人の教育業務に対し集団での示威活動による妨害がされた場合,上記1のような積極的な支出という形で目に見える(有形の)損害が発生すると同時に,財産損害として容易に認識することができない大きな無形の損害が生じる。
前記第1の6に認定のとおり,示威活動1では,当日,喧噪により本件学校の校舎内に著しい混乱が生じ,これによって予定通りの行事や授業ができなくなっている。これによって苦痛を受けたのは,本件学校の児童や教員であるが,学校法人たる原告には損害が生じていないとはいえない。
法人は,生身の人間ではなく,精神的・肉体的な苦痛を感じないため,苦痛に対する慰謝料の必要性は想定し難いが,学校法人としての教育業務を妨害されれば、 そこには組織の混乱,平常業務の滞留,組織の平穏を保つため,あるいは混乱を鎮めるための時間と労力の発生といった形で,必ずや悪影響が生じる(前記第1の7に認定の事実は,学校法人に悪影響が発生した事実を認定したものである。)。混乱の対応のため費やすことになった時間と労力は、積極的な財産支出や逸失利益という形での損害認定こそ困難であるものの,被告らによる業務妨害さえなければ何ら必要がなかった(あるいは他の有用な活動に振り向けることができた)時間と労力なのであって,原告の学校法人としての業務について生じた悪影響であることは疑いがない。
このような悪影響をも損害として観念しなければ,民法709条以下の不法行為法の理念(損害の公平な分担)を損なうことが明らかである。このような悪影響は,無形損害という形で金銭に見積もるべき損害というべきである。すなわち,本件活動による業務妨害により,本件学校における教育業務に及ぼされた悪影響全般は,無形損害として、金銭賠償の対象となる。
(3) 無形損害を金銭評価するに際しては,被害の深刻さや侵害行為の違法性の大きさが考慮される。
ところで,甲第155号証によれば,日本政府は,昭和63年,人種差別撤廃条約に基づき設立された国連の人種差別撤廃委員会において,日本の刑事法廷が「人種的動機(racial mutivation)」を考慮しないのかとの質問に対して, 「レイシズムの事件においては, 裁判官がしばしばその悪意の観点から参照し, それが量刑の重さに反映される」と答弁したこと,これを受けて人種差別撤廃委員会は,日本政府に対し「憎悪的及びレイシズム的表明に対処する追加的な措置,とりわけ関連する憲法民法,刑法の規定を効果的に実施することを確保すること」を求めた事実が認められる。すなわち刑事事件の量刑の場面では,犯罪の動機が人種差別にあったことは量刑を加重させる要因となるのであって,人種差別撤廃条約が法の解釈適用に直接的に影響することは当然のこととして承認されている。
同様に,名誉毀損等の不法行為が同時に人種差別にも該当する場合,あるいは不法行為が人種差別を動機としている場合も,人種差別撤廃条約が民事法の解釈適用に直接的に影響し,無形損害の認定を加重させる要因となることを否定することはできない。
また,前記のとおり,原告に対する業務妨害名誉毀損が人種差別として行われた本件の場合,わが国の裁判所に対し,人種差別撤廃条約2条1項及び6条から,同条約の定めに適合する法の解釈適用が義務付けられる結果,裁判所が行う無形損害の金銭評価についても高額なものとならざるを得ない。

3 示威活動1及び映像公開1に関する無形加害について
示威活動1は,スピーカーや朝礼台の撤去という有形力の行使を伴っており,しかも,それらの物件を撤去が間近に行われる予定であったのに,あえて授業が行われている平日の昼間を選んで行われたものである。その他の一切の事情を考慮すれば, 示威活動1及び映像公開1によって生じた無形損害を賠償するための額としては,500万円が相当である。

4 示威活動2及び映像公開2に関する無形損害について
示威活動2は,主権会及び被告在特会の共催という形で数十名という大人数で組織的に行われたこと、本件学校の授業が行われる平日の昼間を選んで行われたこと,これによって本件学校では課外授業を行うなどのカリキュラム変更を余儀なくさせたことその他の一切の事情を考慮すれば,示威活動2及び映像公開2によって生じた無形損害を賠償するための額としては300万円が相当である。

5 示威活動3及び映像公開3に関する無形損害について
示威活動3のうち北岩本公園発の示威活動は,主権会及び被告在特会の共催という形で数十名という大人数で組織的に行われたこと, 日曜日に行われたとはいえ本件学校の付近で行われたこと,本件仮処分決定の存在を知りながら,これを無視して行われたことその他のー切の事情を考慮すれば,示威活動3及び映像公開3によって生じた無形損害を賠償するための額としては,300万円が相当である。

6 弁護士費用
本件に現れた一切の事情を考慮すれば、弁護士費用としては, 上記3ないし5の無形損害のそれぞれ1割を相当因果関係ある損害として認めるのが相当である。

7 損害額のまとめ
(1) 示威活動1及び映像公開1に関する損害
有形損害    4万7710 円
無形損害    500万円
弁護土費用   50万円
(合計554万7710円)
賠償義務者    被告在特会,被告○○, 被告○○, 被告○○,被告○○,被告○○, 被告○○

(2) 示威活動2及び映像公開2に関する損害
有形損害    11万5430円
無形損害    300万円
弁護士費用   30万円
(合計341万5430円)
賠償義務者    被告在特会, 被告○○, 被告○○, 被告○○,被告○○,被告○○, 被告○○, 被告○○, 被告○○

(3) 示威活動3及び映像公開3に関する損害
無形損害     300万円
弁護士費用    30万円
(合計330万円)
賠償義務者    被告在特会, 被告○○, 被告○○, 被告○○,被告○○,被告○○, 被告○○, 被告○○, 被告○○





第8  差止めの可否について(争点7に対する判断)

1 差止めの法的根拠について
(1) 差止めの訴えとは,不作為義務の履行を求める給付の訴えである。わが国の民法は,不法行為の法的効果を,名誉毀損の場合の名誉回復措置を除き,金銭賠償に限定しているが,これはあくまで不法行為の法的効果として当然に差止請求権が発生するとはしない立法態度にすぎない。もし,不法行為以外の根拠により,ある人が他人に対し不作為義務を負う場合,その人は当該他人に対し,その不作為義務の履行を求める請求権(差止請求権)を有することは当然である。
(2) 不作為義務は, 契約によっても生じるが, 契約がなくとも生じる。例えば,所有権や通行地役権などの物権の侵害行為がされ,それが繰り返されるおそれがある場合に,物権侵害を差し控える不作為義務の履行請求権が物権的請求権として発生する。
不作為義務を発生させるのは物権だけではない。生命,身体,名誉,平穏な日常生活を送る利益などの人格的利益の侵害行為がされ,それが繰り返されるおそれがある場合にも不作為義務は発生するものと解される。
(3) 自然人について,名誉や平穏な日常生活を送る利益が人格的利益として法的保護に値するのと同様,法人についても,名誉や平穏に日常業務を営む利益が法人の人格的利益として法的な保護に値する。法人は,自然人と同様,社会の中で,平穏に様々な日常業務を行い,財を移転し,富を蓄え,社会的評価を形成する存在である。法人の業務や社会的評価も,自然人の人格的利益と同様の法的保護を受けるとしなければ,健全な社会を維持することが不可能となる。
(4) したがって,学校法人である原告は,本件活動によって既に起きた権利侵害(業務妨害名誉毀損)に対しては金銭賠償を求めることができるし,本件活動と同様の業務妨害名誉毀損がさらに起こり得る具体的なおそれがある場合,法人の人格的利益に基づき,被告らに対し, さらなる権利侵害を差し控える不作為義務の履行請求権を取得するのである。

2 被告○○等に対する差止請求の当否について
上記lで述べたところを本件についてみると,被告らが本件仮処分決定の後もこれを無視して示威活動3を行った事実、被告在特会が,示威活動3の直後にそのウェブサイトで「反日教育を推進する犯罪者の巣窟,子どもの未来を奪う児童虐待を継続して行っている朝鮮学校を一日も早く消滅させるため,在特会はこれからもまい進して参ります」という文章を掲載した事実,本件活動後も,被告らの一部が,徳島県職員組合に対する示威活動(被告○○, 被告○○及び被告○○や右京区役所に対する示威活動(被告○○, 被告○○, 被告○○及び被告○○)を,いずれも威圧的・暴力的な態様で行った事実,被告○○が前者に同行してその様子を撮影していた事実, 被告○○及び被告○○が本件学校の移転先(新校舎建設中の場所)にも許可なく立ち入った事実,その際, 被告○○が朝鮮学校を侮辱する言動を行った事実,その様子を被告○○が撮影していた事実に照らせば,本件学校が移転統合された今でもなお, 被告○○, 被告○○, 被告○○, 被告○○及び被告○○並びにこれらの者の活動母体である被告在特会によって,本件学校の移転先において,本件示威活動と同様の業務妨害及び名誉毀損がされる具体的なおそれが認められるから,同被告らには,少なくとも, 主文4項に記載の程度の限度で, 原告に対する権利侵害を差し控える不作為義務を負うものといわなければならない。被告○○についても,上記の被告らとの繋がりがなくなったものとは思われず, 上記の被告らに同行して業務妨害及び名誉毀損に及ぶ具体的なおそれが認められるから,同様の不作為義務を負う。

3 被告○○等に対する差止請求の当否について
被告○○及び被告○○については,本人尋問において原告に謝罪し, あるいは謝罪したいとの意思を明確にしている。また,被告○○は, 平成 22年5月,徳島県職員組合への示威活動を行った被告○○及び被告○○を主権会から除名処分にしているが,弁論の全趣旨によれば,そのころ以降, 主権会と被告在特会とが共同して示威活動をすることがなくなった事実及び被告○○は被告在特会とのつながりが薄くなった事実が認められる。したがって,被告○○及び被告○○の両名によって本件示威活動と同様の業務妨害及び名誉毀損がされる具体的なおそれまでは認められないから,この両名に対する原告の差止請求は理由がない。

4 被告○○に対する差止請求の当否について
被告○○の本人尋問及び弁論の全趣旨によれば,被告○○は本件街宣車の名義人であるものの,その管理及び使用は専ら被告○○が行っており,本件示威活動に本件街宣車が供されたことは本件訴訟に至るまで知らなかったことが認められる。
そうだとすれば,被告○○が本件示威活動のために本件街宣車を提供したとは言い難いのであって, 被告○○の行為により,今後,原告に対する権利侵害がされる具体的なおそれを認めることができないから, 被告○○に対する差止請求は理由がない。

5 北方ジャーナル判決について
被告らは,請求の趣旨4項の差止めは表現行為の事前抑制に当たり, 北方ジャーナル判決が説示する非常に厳格な要件を満たさない限り許されないと主張するが,原告の請求は,被告らによる表現行為そのものを差し止めるものではなく,本件学校の移転先の門扉を起点にした半径200メートルの範囲だけに場所を限定し, かつ, 業務妨害あるいは名誉毀損となり得る表現行為のみを制限するにすぎない。北方ジャーナル判決は, この程度の不作為義務の給付をも違法とするような法理を述べるものではなく,被告らの主張は失当である。




第9 結論


以上の次第で,原告の損害賠償請求は前記第7の限度で理由があるものとして認容し,その余を失当として棄却し, 原告の差止請求は, 前記第8の限度で理由があるものとして認容し,その余を失当として棄却することとし, 主文のとおり判決する。

                                 以上。