京都・徳島襲撃事件刑事第4回公判傍聴記 1 

再び裁判傍聴にいってきました。東北・関東大震災に対する思いはありますが、このような時だからこそ、平時のたたずまいをする事に意味があると筆者は考えます。ですから粛々と記録を残したいと思います。



3月22日 京都地方裁判所13時40分 209号法廷
傍聴席は定員52人。在特側傍聴は12人程。
裁判が始まると最初に、証拠確認で検察、弁護側とのやりとりがあり中身は、検察より徳島・京都での人物確認であった説明がなされ、その後、徳島県教組の直接の被害者であるTさんの意見陳述が行われた。
「県教組に対して在特会を名乗る19名の侵入による建造物不法侵入と威力業務妨害について被害当事者として意見を述べます。まもなく1年になるというのに書記局にたった一つある窓は閉め切り、ブラインドを下したままです。事件当時の恐怖は消えていません。街で街宣マイクの音を聞くと体が強張り、自宅にいる時も大声を聞くと不安にかられ事件の恐怖が蘇ります。私や京都朝鮮学校の子供達が受けた苦痛を二度とあじあわせたくありません。事件の事を話すと恐怖が蘇ってきますが、被告達の犯行が民主主義の根幹を揺るがすものである事を確認して頂くために勇気を振り絞って意見を述べます。私は2ヶ月後に迫った県教組定期大会の議案書作成に連日取り組んでいました。被害当日もその作業に専念し机上には多くの資料が置かれていました。午後1時頃、突然の拡声器での街宣が始まり、徳島県教組への非難街宣である事を確認し110番通報をしました。とにかく通報に必死で、まさか会館に入ってきているとは思いませんでした。在特会が入ってきた時、既に逃げ場はありませんでした。電話を切らないで下さいとの警察からの指示があったので、受話器をもったまま想定外の状況に茫然と立ち尽くしてしまいました。在特会は何処の誰かを名乗る事もなく乱入してきました。後日初めて在特会であると知りました。これまで公式の抗議申し入れもまったくなく、突然襲撃を受けたとしか言いようがありません。書記局内の状況は、皆様が映像でご覧になったとおりの惨状です。私はその場にいた者として伝えようとしても伝えきれない程の恐怖が蘇ってきます。突然に拡声器の大音量で大勢が押し掛けがなりたてられた事で何をされるのかと思い、身の危険を感じ体は硬直しました。必死に振り絞る思いで「出ていって下さい」と言ったのですが「じゃかましいわ、コラッ」と出て行きませんでした。その後も3人の被告らを中心に募金詐欺ネコババ日教組等、子供救援カンパに対する誹謗中傷、個人に対する国賊売国奴、朝鮮の犬、詐欺師等の暴言を大勢の人が私の周りを取り囲むようにして大音量で浴びせかけました。わずか9坪程の狭い書記局は見る見るうちに人垣ができ彼らの攻撃から逃れる事もできませんでした。法廷では被告人らは正当な抗議活動であり政治活動の範囲内として社会的に許容されると主張していますが、こんな攻撃的、暴力的主張の押し付けが許されていいものでしょうか。そもそも徳島県教組組合は組合員から恵まれない子供達を支援ためのカンパを集めて、連合に集約し、その中から恵まれない子供たちのいる朝鮮学校に支援金を渡しただけで政治的意図はまったくありませんでした。これを説明しようとしましたが、説明を遮られ募金詐欺など悪口雑言と罵倒され、私たちの子供達を支援したいという思いは踏みにじられ恐怖の渦に飲み込まれました。中谷良子と荒巻被告人によって私の手から受話器がもぎ取られました。私は唯一の通信手段を奪われ孤立無援の恐怖に襲われました。また、動画ではわかりませんが、私は酒の臭いをプンプンさせていた荒巻被告に眉間に人差し指を突きつけられ肩をつつかれ、目の前の迫りくる恐怖にますます身の危険を感じました。その後N被告がサイレンを鳴らすように指示し、その瞬間から狭い屋内に大音量のけたたましいサイレンの音が鳴り響き怒号と罵倒のシュピレヒコールを上げ意図的に喧騒状態にしました。私は耳を塞ぎパニックを起こし、まともに対応する判断力さえ奪われてしまいました。私は誰も助けてくれず追いつめられていくようで、体がガクガク震え、人を人と思わぬ怒号によって自尊心をずたずたに引き裂かれました。何時までこのような事が続くのか命の危険を感じながら孤立無援さいなまれました。被告人らは書記局内にいたのは13分程度という事でしたが、私にとりましては何時終わるのか先が見えず大変長い時間に感じられました。言葉の暴力によって人格が否定され体が潰れてしまったような状態になりました。その後ずっと論理的思考ができなくなり、物事を順序だてて整理する事もできなくなりました。事件以降は事後処理に忙殺され、いやがらせ電話も鳴り続け定期大会議案書がまったく手につきませんでした。事件以降は書記局前に警備会社の二人体制の警備を行ったり夕方以降は他の組合員に来てもらったり、終日安心して書記局にいる事は出来ませんでした。
被害当日云われなき攻撃を受けた書記教員には精神的ケアのためにカウンセリングを3回受けてもらいました。このようにわずか13分程度と言いますが、その精神的衝撃は時間の長短ではなく、その深刻な事態となって引き起こされたものです。食事は喉をとおらずそれでも職務をこなさねばならず精神的肉体的苦痛を伴いつつ重い体と心を引きずるような状態でした。安全安心対策確保のために要した精神的物理的負担は甚大なものでした。さらに在特会は犯行状況をネットに流し続け、DVDにして販売し個人名をあげての誹謗中傷が今も繰り返されています。インターネットにおける人権侵害ばかりでなく県教組をはじめ日教組の社会的評価を甚だしく低下させるものとなっています。日常であの動画を見る事ができると考えると精神的苦痛は今も消えていません。最後に私の処罰意思について述べます。動画でも確認されましたが、何をもって被告人らが主張する市民的抗議活動と言えるのか甚だ疑問です。募金詐欺などと事実無根の事で罵られ怒りをぶつけられた私にとっては、日教組への憎悪、在日外国人に対する憎悪としか聞こえませんでした。彼らの行動が社会的に許容されるとしたら日本国憲法が保障する言論表現の自由は悪意に満ちた者たちの自由となり、そうなりかねない危険性があります。そして社会的弱者やマイノリティは排除され物言えぬ社会になりかねません。それでは日本の民主主義は崩壊する事になります。それなのに被告人らは謝罪や反省の色もなく本件同様の攻撃対象を激しく罵り、恐怖に陥れる活動を何度も繰り返しており、今なお裁判中にもかかわらずヘイトスピーチを続けています。そして被告人達はまさに犯行の中心メンバーである事は明らかです。私が受けた苦痛を二度と他の人が受けないための社会になるよう願っています。裁判所にはこの国の健全な民主主義を守るよう被告人達に対して厳重なる処罰を求めます。」

このTさんの意見陳述の後、弁護人よりいやがらせ電話の件は本件被告との関係は不明であるとし、また京都朝鮮学校の件で当人が現場にいなかった理由で、さらに日教組の件においても当事者として関連が薄いとの理由でそれぞれ削除要求がされたが、全て関連性があるとして裁判官の判断により全て却下された。
ちなみに、筆者が聞いた話では本来は検察要求として証人の立場でTさんが出る予定であったが、証人になると弁護側の反論もあり、また法廷でさらされる二次被害の恐れがあり、裁判官の判断で却下とされていたが、Tさんの勇気を振り絞った強い意思により今回の意見陳述となった模様だ。筆者は想像するにTさんの強い意思は何も自分、そして県教組が被害を受けたという問題意識だけではなく、この間朝鮮学校側民事裁判に通われ朝鮮学校への連帯もあっただろうが、さらに一人の教員として朝鮮学校の子供たちへの思いもあったと思える。これはこの裁判で唯一悲しい思いをした被害者として述べるTさんの意見は朝鮮学校への言及がある事でも明らかだと思う。筆者は見たくもない被告らの傍で堂々と意見を述べられたTさんに敬意を表したい。

続いて検察官の本件事件に対する意見が述べられた。
長くなるので趣旨を要約すると、本件は映像で明らかなように威力業務妨害、侮辱罪、建造物侵入罪、器物破損罪であるとし、後は事実関係のおさらいで、京都・徳島でのそれぞれの罪の具体的な中身について述べられた。また、弁護人に対する反論もなされていたが今までの刑事事件エントリーにおいてのこれまたおさらい的なものでそれを読んでほしい。また被告人の中で個人の情状の中で罰金刑であるが前科がある人物も明らかにされた。そして西村斉被告、川東被告、荒巻被告は検察の決まり文句ではあるけど再犯の可能性は非常に高いと括られ、中谷辰一郎被告のみ再犯の可能性は否定できないと結ばれた。そして首謀者格である西村斉被告に懲役2年、荒巻被告、川東被告に懲役1年6カ月、中谷辰一郎被告に懲役1年がそれぞれ求刑された。


これを読む方々の中には、この求刑を軽いものと感じる方々が多いと思われるが、筆者はこの裁判に臨む検察の姿勢ではこんなものだろうと感じていた。本件裁判が始まる前に朝鮮学校元校長を罰金刑といえども略式起訴し、被告らのヘイトスピーチの破壊的暴力性を認識できず、現行法において適用できる名誉棄損を侮辱罪に落とし、朝鮮学校側に被害の根深さに対するアプローチも程々にし、在特会会長桜井誠(自称)、主権回復を目指す会代表西村修平に対する追及も区切り、事件の発端となるメールを差し出したヘイト団体である在特会にシンパシーをもつ近隣住民への言及も、実際の公園使用の苦情に対する調査もいやがらせのような苦情にさらされた公園管理課の証言で適当にすませ、予定調和で事件処理をしようとする検察である。再び言うが、こんなもんである。
ただ一つ検察が正しいのは徹頭徹尾、被告らを単なる粗暴犯として処理している事だ。後で出てくるが被告らの政治的主張も市民的抗議などという与太話に付き合わず、粗暴犯として事件処理をしているのだがこれは当たり前か。それにしても検察は被告らが粗暴犯としていかに、表面にでにくいが学校側、県教組の人々、そして全国のマイノリティの心に深く傷を負わせたかを知ってほしかった。