第18回口頭弁論 傍聴記

6月13日、朝鮮学校嫌がらせ裁判も、19回目となりついに結審を迎える事となった。
この日も、多数の学校支援者が傍聴に訪れ、マスコミ関係者も集まり、傍聴席は抽選となった。筆者はそれでも当りとなるから、お前は書けと何かに言われている気がしていますよ。でも、これで最後の判決傍聴抽選に外れたら、「ビローン」の後ろで泣きながら踊り狂おうと思います。判決の報道に注目してください。




さて、この日、裁判長は何時ものように、前回裁判以降に提出された、原告被告双方の書面と証拠物の確認をした。
原告側の書面は14,15,16,17の4点の準備書面が提出されており、それぞれ、損害論をコンパクトにしたもの、民族教育についてのもの、証拠に照らしたもの、学校移転にともなう差し止めについて整理したものとなっている模様である。
それに対して被告側は、表現の自由に関する書面が一点提出された模様。
また、原告側が後に読み上げられる具弁護士の陳述書と、ヘイトクライム研究の専門家である前田朗氏の意見書が出され、被告側は被告人である八木氏の陳述書が提出された。
また、これ以外に、証拠物が幾つか出されたようだが、以上のものらはおいおい確認、紹介していきたい。


次に、最終意見陳述として原告側は、この裁判の初回で陳述した、本件朝鮮第一初級学校卒業生であり学校弁護団の一員である具弁護士が、被害の本質である朝鮮学校児童の民族的アイデンティティへの影響について、自らの体験も交えた意見を述べた。学校弁護団はこれにより、朝鮮学校と、父兄保護者らと、そして児童たちと、ともにこの裁判を戦ったという姿勢を見せた。

その具弁護士の最終陳述は、まず、今回の事件が学校、児童に与えた影響を、嘗てのチマチョゴリ切り裂き事件を取り上げ、学校が疲弊していく様子が語られた。また、自らが受けた嫌がらせ体験をもとに、児童が受ける民族的自尊心への深い傷を説明し、本件事件が、過去より行われていた、コソコソとした個人の単発的な攻撃ではなく、集団的、計画的であり、悪質性をもったネット配信により、深刻な被害をもたらした事を述べ、これらが現在の新大久保、鶴橋でのヘイトスピーチが野放し状態になっている現状に繋がっている点を訴え、その司法判断を求めた。
この具弁護士の最終陳述は、全文、次回に紹介する予定。


次に、被告側より、被告代理人徳永弁護士が意見陳述をした。
まず、3回に渡る街宣行為を行なった事実と、それによる刑事で有罪とされた事と、それによって主権回復を目指す会在特会と対立するようになったなどを述べ、政府が朝鮮学校を無償化からはずし、補助金を差し止める情勢と半島情勢について語った。
その上で、中国、韓国により、日本人が恥ずかしい思いをさせられており、ヘイトスピーチの現状を「反発」であると、私(徳永弁護士)は感じていると述べ、民族アイデンティティで共通する土俵があるのではと、この訴訟を通じて私(徳永弁護士)は思ったと述べた。
新大久保、鶴橋のヘイトスピーチは多くの国民が眉をひそめるヘイトスピーチの繰り返しであった。これに反感をもった「レイシストしばき隊」が「反レイシスト」の看板を掲げて、過激な言動を競い合うという状況が発生している。こうしたエスカレーションは、警察に抑え込まれているが、ヘイトスピーチ規制論が弁護士会や政治の場で議論されるようになっている。本件で問題になっているヘイトスピーチの規制論は、アメリカで1992年の連邦最高裁で、表現の乱用に対する規制であって、違憲であるとされた。アメリカでは規制する動きがほとんどなくなった。カナダにおけるヘイトスピーチの規制は6月5日に上院を可決して「ネット上の規制」は廃止される事になった。ヘイトスピーチの議論は各国で盛り上がっているが、一つの方向に向かっているとの原告の主張は誤りと思う。
被告らは街宣活動の表現行為との側面を強調してきた、確かに児童が通う学校の前で、拡声器を使ってわめきちらし、授業を妨害し、子供たちを怯えさせたという事は、その犯罪性は疑う余地はない。しかし、そこに表現行為の余地はないのか?その点、深く懸念している。少なくともネットで掲載された彼らの表現、公園の不法占拠をやめろ、或いは朝鮮学校の在り様に対する誹謗中傷的表現、それも表現の自由、政治的表現の保護の範疇にあると、代理人は信じている。公正な論評の法理、どんなに酷い表現であっても、公共の事実にたる、信じるにたる相当な根拠があるなら保護されるべきで、意見はわかれるが、被告ら公共の目的をもった正義の行動だと思っている。
以上。後、イギリスの裁判官が言った言葉があったが、省略。

この後、八木氏の陳述を代理人が促したが、八木氏は何故か断っている。

また、原告側より、カナダでは今現在、「ネット規制法」はまだ廃止されていないと指摘され、被告代理人はこれを認め、深いため息をついた。



被告側代理人の陳述というのは、現在の在特会などへのカウンター状況をどっちもどっちとあざとくもっていこうとする悪質なとこもあり、つらつらと述べてはいるが、早い話が、犯罪行為は認めるけど、表現の自由ですよというものであった。
これは、この裁判の初めから近い文脈で遠回しに言っていたものを「被告らは街宣活動の表現行為との側面を強調してきた、確かに児童が通う学校の前で、拡声器を使ってわめきちらし、授業を妨害し、子供たちを怯えさせたという事は、その犯罪性は疑う余地はない。」とはっきりと述べたとこに特徴がある。
しかし、この陳述はこれでも欺瞞に満ちている。
被告らが、この裁判で当初から主張してきたものの一つに「50年にわたる不法占拠」という「嘘」がある。これは裁判で明らかになったように、行政、地域、学校の三者協定により使用をしてきたものであり、阪神高速建設工事が始まるまでフェンスですみわけがおこなわれていたものだ。

朝鮮学校いやがらせ事件における公園使用の経過(弁護団第三準備書面より)」
http://d.hatena.ne.jp/arama000/20101215/1292420581

また、被告らが拠り所にする「元校長の略式起訴」の件も、半年間に不法物を置いたものであるが、これも当時、公安警察による滋賀朝鮮学校を始めとする家宅捜査などが続いていた時期で、元校長は学校を守るために苦渋の中、検察に認めた経緯がある。
さらに、被告らは、行政の撤去の約束があった事を知りながら、襲撃を決行した悪質性も裁判で暴露されている。
いったい、何処に徳永弁護士の言う「事実にたる根拠」があるのだろう?
被告らが3回にわたって行った、デモ・街宣で叫んだヘイトは全て「嘘・出鱈目」である。何一つ事実などない。

この裁判は、「児童が通う学校の前で、拡声器を使ってわめきちらし、授業を妨害し、子供たちを怯えさせたという事は、その犯罪性は疑う余地はない」だけを問題にしているのではない。それだけを問題とするならば、事実の隠ぺいであり事件の矮小化を図っているとしか言えない。
この裁判の本質は、あの校門の前で、そしてデモで叫ばれた、嘘、出鱈目によって貶められた児童の尊厳、学校の尊厳、父兄の尊厳を取り戻すための裁判である。
そして、あの襲撃時、被告ら傍観していた警察、事件をうまく処理するためだけに元校長を略式起訴した検察、責任から逃れようとする行政。そして社会に対して、自らの尊厳を賭けた裁判なのだ。
想像してほしい、この襲撃事件が「日本学校」であったならば。即座に、被告らは犯罪者として処理されていただろう。そのための、保護者らの血のにじむような辛苦はあっただろうか?弁護団のここまで戦いはあっただろうか。
被告代理人の陳述が、一見もっともらしく聞こえたならば、それは間違っている。



最後に、世界7月号に中村一成氏の「ヘイトクライムに抗して ルポ・朝鮮学校襲撃事件」の第一回が掲載されている。そこには襲撃事件の時、あの校舎の中で何があったのか、そこから裁判に至る過程が詳しく書かれている。筆者が見聞きしたもの以上の事実があり、何よりも筆者が書きたくても能力がなく書けなかったものがある。是非、手に取って読んでほしい。
http://www.iwanami.co.jp/sekai/



次回、朝鮮学校嫌がらせ裁判第20回口頭弁論は、判決。
9月26日(木曜日)午前11時より。京都地方裁判所101号法廷にて。