第17回口頭弁論傍聴記 まとめ


第17回口頭弁論は、本件裁判において最後の証人尋問となっている。
まず、初めに証言された、Fさんは、当時、京都朝鮮第一初級学校に児童を通わせる父兄の一人である。そしてその証言は胸を詰まらせるものであった。
最初に、自らの朝鮮学校体験が語られ、そこでは「朝鮮」という言葉が蔑みの表現と感じた中、朝鮮学校に通い始め、朝鮮を学び、故郷の歌を覚え民族衣装を学校で着て胸を躍らせる事で、「朝鮮」という言葉が生きていく支えとなった自らの体験を語った。
また、阪神高速道路建設工事がはじまり公園が縮小される中、近隣住民らの話を聞き、公園を分かち合うための努力がなされた経過も証言した。
そして、2009年12月4日の事件。自らの子供が通う学校に、在特会などのヘイト街宣が行われていると知らされ、いてもたってもいられず、車で学校に向かい、そこで聞くに堪えないヘイトの中、わが子の安否を心配する心情を証言。さらに、在特会が去った後の、子供たちを守れたのかという問いと、呆然としショックを受け、起こってしまった現実にどう対処したものかわからない虚脱した学校風景があった。
さらに、襲撃事件以降、事件映像が拡散され、子供たちの変化に気をやり、疲弊していく惨状が語られ、その後2回に渡る、在特会等のヘイトデモによる攻撃に対してその対処のための心労を重ねていく状況が一つ一つ生々しく語られた。
その後、この裁判を起こすにあたり、何故、自分たちが「さらし者」にならねばいけないのか、何故、自分たちが「被害者」にされるのかという不条理極まりない葛藤ののち、自らの尊厳を取り戻すための戦いを決意して様も証言された。
この、在特会等の3回に渡るヘイト街宣・デモは学校に何をもたらしたのか。朝鮮学校が築き上げてきた尊厳を砕き、父兄と子供を傷つけ疲弊させ、朝鮮学校が積み重ねてきた地域との信頼関係を一瞬にして潰すという破壊的な惨状をもたらす被害があった事明らかにされた。
これは、前回裁判において証言された、学校父兄Aさん、教員Bさんの証言とも繋がり、学校側の訴えは、朝鮮学校の存在意義と謂れなき偏見を打破しようという父兄の共通の訴えであった。


次に、本件裁判最後の証人として同志社大学教員である板垣さんの証言があった。板垣さんは歴史学社会学の専門家の立場から、朝鮮学校の歴史、教育内容、学校をとりまくレイシズム環境についての証言がなされた。
まずはじめ、朝鮮学校は運動という側面により存続があるとの指摘を行った。その中では、学校運営は教師の給与面も含めボランティア的な側面があり、父兄の支援を始めとした学校に係る人々の活動がなされているとの証言。例として、通学定期券などは運動の中で認められたものであり、学校の教育環境が一つ一つ運動によってかち取られたものとの証言であった。その上で、戦前の夜学からはじまる、連綿と培われてきた民族教育の歴史を語った。
また、教育内容も時代により変化してきた過程を指摘、現在は日本で生活するため教育がなされているとの証言。
そして、学校の教育内容も、現在の教科書をもちいながら、在特会等がいう「反日教育」というものの虚構性を明らかに、朝鮮学校教育内容は、子供たちに日本に住むうえで必要な教育がなされており、朝鮮学校が日本の排外的圧力環境の中で、子供たちを朝鮮人として生きていく民族的アイデンティティを養う教育であるとの指摘がなされました。
さらに、板垣さんは、今、朝鮮学校が置かれている日本の排外的風潮の厳しさをあげ、具体的に事件を引き起こした在特会等を引き合いに、朝鮮学校が標的とされるレイシズムの内容とその具体性を証言した。そして、12月4日に始まる本事件は、レイシズムとはどのようなものか、「教科書」に載せてしかるべき事件であるとの証言もあり、レイシズムを研究するものならば、これぞ「レイシズム」そのものであるとの評価を述べた。


それら、上記2名による証言に対する反対尋問であるが、在特会など被告側は、相も変わらず、「拉致事件を引き起こした北朝鮮」と「洗脳教育である朝鮮学校」を結び付ける印象操作に腐心する尋問が行われた。
ここらへんについて、筆者は前から疑問に思っているのだが、この事件は「朝鮮学校に対する出鱈目な偏見により、犯罪行為を起こした被告らを裁く」裁判である。
被告らが未だに唱える「50年に渡る不法占拠」などというものは、既に刑事裁判においても相手にもされていない。ましてやそこで「朝鮮学校は洗脳教育」であるなどと学校の実情をろくに知らないまま事件を引き起こした事は、被告代理人の反対尋問からも明らかである。彼らの「偏見」がいったい何の情状酌量になるのかさっぱりわからない。

そして、もうどうしようもない、在特会副会長八木氏の尋問?であるが、彼は朝鮮大学にいったおり、「ブルーリボン」をつけているから駄目と入校を断られたというが、原告弁護団が言うように、日の丸を掲げて「ケンカ腰」で「朝鮮人を殺しにきた」などと怒声を上げていれば、それは断られて当然である。いや、断らない方がどうかしている。

在特会は2008年より、連続して朝鮮大学に押し掛け嫌がらせを行っている)
「2011 1106 在特会 朝鮮大学創立55周年抗議1」
http://www.youtube.com/watch?v=51ec6t3jcus


さらに、唖然としたのが、八木氏は、最初何を言いたいのか裁判長も理解に苦しんだ、「「阪神教育事件」が政治活動なら、我々の本件活動も政治活動」であるというものだ。
これは、板垣さんの証言にもあるように、「阪神教育事件」というものは「阪神教育闘争」と呼ばれ、権力に対してマイノリティが生存権をかけて戦った「政治運動」と呼ぶべきもので、「50年に渡る不法占拠」などという妄想をもとにした犯罪行為と一緒にするほうがどうかしている。
これは、裁判長も重々ご承知のようで、「適切な反対尋間ではないから、制限します」と被告側の印象をさらにマイナス方向に引っ張っていくもののようだ。

ついでに書き加えると、この「阪神教育事件」というのは、この八木氏自身が「戦後混乱期に暴虐をつくした朝鮮進駐軍の犯罪行為」の証拠として、国会図書館で集めた「資料」の一つに入っていたものである。
何時の間に「朝鮮進駐軍の犯罪行為」というのを、彼は「政治運動」と認めたのだ?
一つ思い当たるふしは、八木氏の出してきた「資料」の中に各「警察史」というのががあるのだが、そこでは、その取り締まりをしていた警察が「阪神教育事件」を「政治運動」と認識しているのだ。
八木氏の頭の中では「暴虐なる朝鮮進駐軍の犯罪」はこれで単純に「政治運動」となったかどうかはわからないが、「犯罪」と「政治運動」という言葉の意味を自分勝手に都合よく解釈する「在特会的体質」というものの一つの事例である。



次回、第18回口頭弁論で、本件朝鮮学校嫌がらせ裁判は、いよいよ結審となる。


●日時:6月13日(木) 
14時00分開廷/集合時間 13時00分