検察起訴に対する徳島県教組声明

徳島県教組声明が入手できたので全文と付随の資料を掲載する。
なお、今回、起訴されたのは「チーム関西」メンバーであった2名である。
以下、声明文。



検察審査会不起訴不当議決を受けて検察による起訴判断に対する声明
2013年4月4日

徳島県職員組合

2010年4月14日、在特会らによる徳島県教組書記局襲撃事件から丸3年、公訴時効成立まであと数日を残す今日、徳島地検による起訴決定との判断が下された。
自らの主張のためには手段を選ばず、一方的に罵声を浴びせて攻撃するという民主主義の根幹を否定する事件の首謀者を許すことはできない。この3年間、あのおぞましい記憶は消えることなく私たちの胸に刻みつけられ、なお一層の憤りをもって司法の場に訴え続けてきた。
事件から一週間後の4月21日、刑事告訴し、同年9月8日、7人が逮捕された。そして、9月29日に6人が起訴され、徳島地裁では11月17日に3人の裁判、京都地裁では、翌年2011年2月1日から主犯格3人が京都朝鮮学校事件との合同裁判となり、それぞれ有罪が確定した。しかしながら、「建造物不法侵入・威力業務妨害」で、主犯格と同様な役割を果たした2名はともに不起訴となり、「名誉毀損」でも19人すべて不起訴となった。
私たちは、検察の判断に納得できず、2011年7月28日に、徳島検察審査会に審査申し立てを行った。そして、約1年近くの審議を経て2012年6月21日に、私たちの主張をすべて認める「不起訴不当」議決がなされた。その議決を受け、再び徳島地検に差し戻されることとなった。私たちは全国の支援者に呼びかけ、事件の「起訴を求める団体署名」に取り組みつつ、これまで幾度となく徳島地検へ上申書・意見陳述書を提出してきた。「起訴を求める団体署名」は、県内外合わせて合計1549筆の署名を提出することができた。この署名の重みを労働組合の社会的責任と受け止め、徳島地検の厳正なる判断を待った。
徳島地検の判断は、「名誉毀損」については不起訴となったが、「建造物不法侵入・威力業務妨害」については、2人が正式起訴となった。検察審査会への申し立てから起訴まで持ち込めるのは、わずか0.93%に過ぎない。私たちがあくまで刑事裁判にこだわってきたのは、主義主張のためには、どんな蛮行も表現の自由と称して政治活動だと主張し,正当化することに対し,厳しい刑事処分で臨むべきだとの判断からである。
在特会やチーム関西をはじめとする排外主義者の活動は、京阪神だけでなく高知や島根など、全国各地で広がりをみせている。特に、「竹島問題」「朝鮮学校授業料免除不許可問題」「朝鮮学校及び朝鮮総連土地問題」「朝鮮学校助成金問題」をはじめ「慰安婦問題」など、ヘイトスピーチを繰り返しその行動を正当化しようとしている。また、東京では、新大久保外国人排斥デモが5回も起こっている。
今後も、徳島県教組は、排外主義を許さない立場で運動をさらにすすめていく。思えば長く険しい道のりを一歩一歩踏みしめ、ここまで闘いを続けてきた。多くの支援者の力なくしてこの闘いを構築することはできなかった。改めて多くの支援者の勇気ある行動に感謝と敬意を表すると共に、今後も、さらなる闘いを続けていくことを宣言する。








以下、資料。

[参考資料]  平成24年版 犯罪白書 第5編/第2章/第1節/3
(まとめ)
昭和24年から平成23年までの検察審査会での処理 16万0081人
 内 起訴相当及び不起訴不当            1万7734人(11.1%)
 内 起訴                    1493人(0.93%)    有罪                     1334人(0.83%) 
     自由刑                     468人(0.29%) 
     罰金刑                     866人(0.54%) 
    無罪(免訴及び公訴棄却を含む。)          86人(0.05%) 
 [平成24年版 犯罪白書
3 不起訴処分に対する不服申立制度
公訴権は,原則として検察官に付与されているが,検察官が判断を誤り,起訴すべき事件を起訴しない可能性もあることから,検察官の不起訴処分に対する不服申立制度として,検察審査会に対する審査申立て及び管轄地方裁判所に対する付審判請求(「準起訴手続」ともいう。)の制度がある。
(1)検察審査会に対する審査申立て
検察審査会(現在,全国に165庁が設置されている。)は,選挙人名簿に基づきくじで選定された11人の検察審査員(任期6か月)により組織され,申立てにより又は職権で,検察官の不起訴処分の審査を行い,「起訴相当」,「不起訴不当」又は「不起訴相当」の議決を行う。
従来,検察審査会の議決には,法的拘束力はなく,検察官が,その議決を参考にしつつ,公訴の提起を判断するものとされていたが,検察審査会法(昭和23年法律第147号)が改正され(平成16年法律第62号による改正),一定の場合に検察審査会の議決に基づき公訴が提起される制度が導入された(平成21年5月21日施行)。この制度では,検察官が不起訴処分とし,検察審査会が起訴相当の議決を行った事件につき,検察官が再度不起訴処分にした場合又は一定期間内に公訴を提起しなかった場合には,検察審査会は,再審査を行わなければならず,その結果,「起訴をすべき旨の議決」(起訴議決)を行ったときは,公訴の提起及びその維持に当たる弁護士(指定弁護士)が裁判所により指定され,この指定弁護士が,起訴議決に係る事件について,検察官の職務を行う。
検察審査会における事件(再審査事件を含まない。)の受理・処理人員(最近5年間)は,5-2-1-1表のとおりである。平成23年における受理人員のうち,刑法犯は1,878人であり,罪名別に見ると,自動車運転過失致死傷が290人と最も多く,次いで,職権濫用(221人),傷害(196人),文書偽造(187人),詐欺(148人)の順であった。特別法犯は216人であり,労働基準法違反が60人と最も多かった(いずれも延べ人員。最高裁判所事務総局の資料による。)。
起訴相当又は不起訴不当の議決がされた事件について,検察官が執った事後措置(最近5年間)を,原不起訴処分の理由別に見ると,5-2-1-2表のとおりである。
検察審査会法施行後の昭和24年から平成23年までの間,検察審査会では,合計で延べ16万81人の処理がされ,延べ1万7,734人(11.1%)について起訴相当又は不起訴不当の議決がされている。このうち,検察官により起訴された人員は,延べ1,493人であり,1,334人が有罪(自由刑468人,罰金刑866人),86人が無罪(免訴及び公訴棄却を含む。)を言い渡されている(最高裁判所事務総局の資料による。)。
また,起訴相当の議決がされた後,検察官が不起訴維持の措置を執り,検察審査会が再審査した事件のうち,平成23年に再審査が開始されたものは5人であり,同年に議決に至ったものは,起訴議決が3人,起訴議決に至らなかった旨の議決が2人である(いずれも延べ人員。最高裁判所事務総局の資料による。)。
◆5-2-1-1表 検察審査会の事件の受理・処理人員

◆5-2-1-2表 起訴相当・不起訴不当議決事件 事後措置状況(原不起訴理由別)

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/59/nfm/n_59_2_5_2_1_3.html
[新聞記事]
■<ヘイトスピーチ>「殺せ」… デモ、目立つ過激言動■
毎日新聞2013年 3月18日(月)15時1分配信
デモなどで特定の人々を公然と侮辱する「ヘイトスピーチ」が目立つようになっている。海外ではドイツやイギリスなどヘイトスピーチを処罰対象としている国もあるが、日本では「野放しの状態」(専門家)。標的となった人からは「危険を感じる」という声も上がっている。【川崎桂吾】
「殺せ、殺せ」「ゴキブリ」「日本からたたき出せ」
2月上旬、外国人が多く暮らす東京都内の繁華街でデモがあり、そんなシュプレヒコールが飛び交った。デモは特定の外国人を排斥する目的でインターネットで告知され、男女100人以上が参加した。
既存の右翼団体とは異なり、参加者もほとんどが一般人。こうした現場を取材してきたフリージャーナリストの安田浩一さんは「数年前に比べ文言がより過激になっている。『殺せ』という言葉はヘイトスピーチと言えるのではないか」と話す。
一方、デモを呼びかけた団体の一つは「参加者から自然に出た言葉で、推奨しているわけではない。何がへイトスピーチなのか明確な定義はなく、デモの表現としてあっていいと思う」(広報担当者)と説明している。
デモを間近に見た外国人男性(25)は小声で「怖かった。危険を感じた」と話した。ツイッターでも「デモやばかった」「ひくわー」などのつぶやきが相次いだ。
デモを問題視した超党派の国会議員も抗議集会を呼びかけ、今月14日に200人以上が参加。また17日の同様のデモでは、コースの途中に「仲良くしようぜ」などと書かれたプラカードを持った人々が集まり、抗議の意思を示した。運動を呼びかけた男性会社員(30)は「もう見過ごせないと思った」と話した。
◇海外では処罰対象
ヘイトスピーチは社会の平穏を乱し、人間の尊厳を侵すとして、諸外国で規制されている。ドイツはデモや集会、ネットの書き込みで特定の集団を侮辱する行為を「民衆扇動罪」に定め、5年以下の禁錮刑を科している。国内に住む外国人を「駆除されるべき集団」などと表現する行為もこの罪に当たる。
イギリスの公共秩序法も同様の行為に7年の懲役刑、フランスや民族対立から内戦が起きた旧ユーゴスラビアモンテネグロも罰金刑を設けている。
しかし日本では規制がない。名誉毀損(きそん)や侮辱、脅迫罪は特定の個人や団体を対象にしており、国籍や民族などで分けられる不特定の「集団」に対する言動には適用できない。東京造形大の前田朗教授(刑事人権論)によると、表現の自由に反する恐れのあることが、規制に踏み出せない理由という。
ただ前田教授は「個人への侮辱が罪になるように、集団への侮辱を規制しても表現の自由には反しない。日本だけが時代遅れの『ガラパゴス』になっている」と話す。高千穂大の五野井郁夫准教授(政治学)は「東京に五輪を招致しようとしている日本でヘイトスピーチがまかり通っては、国際的な信用を失いかねない」と指摘。今回、抗議の意思を示した市民が現れたことに着目し「表現の自由を狭めかねない行政による規制の前に、こうした動きが起きたことを評価したい。差別を許さない市民意識を育むきっかけになれば」と話している。
ヘイトスピーチ(憎悪表現)
人種や国籍、ジェンダーなど特定の属性を有する集団をおとしめたり、差別や暴力行為をあおったりする言動を指す。ネオナチ運動に対処するため1960年にドイツで制定された民衆扇動罪や、「人種差別の扇動に対しては法律で処罰すべきだ」と宣言した国連の人種差別撤廃条約(69年発効、日本は95年に加入)を背景に、各国が規制に乗り出している。

■新大久保の反韓デモ、救済申し立て 「身に危険の恐れ」■
朝日新聞デジタル2013年 3月29日(金)21時59分配信
韓国系の商店が並ぶ東京・新大久保で「韓国人をたたき出せ」「殺せ」などと連呼するヘイトスピーチ(憎悪表現)のデモが続いていることを受け、人権問題に取り組む有志の弁護士12人が29日、「これ以上、放置できない」として、東京弁護士会に人権救済を申し立てた。
弁護士らは、外国人の安全を守る責任があるのに、適切な防止策をとっていないとして、警視庁に対しても周辺住民の安全確保を申し入れた。
申し立てたのは、日本弁護士連合会前会長の宇都宮健児弁護士ら。梓沢和幸弁護士は「在日外国人の恐怖感は高まっており、身体に危険が及ぶ可能性もある」と話した。


以上。




まず、確認しなければならないのは、この「徳島県教組襲撃事件」は、京都朝鮮学校襲撃事件に連なる事件であり、単なる建造物不法侵入・威力業務妨害では決してない。
何故なら、事件を起こした被告らは、両事件に重なっており、その主張は「朝鮮学校」を標的としたレイシズムそのものを根幹としており、その口汚い侮蔑表現は排外的であり、マイノリティ及びその支援者を愚弄し騒乱を巻き起した、ヘイトクイラムと呼ばれるべき事件であったからだ。
その上で、今回の検察審査会を得ての起訴は、まさに針の孔を通すほどの難しさであったのは上記資料を見ても明らかだ。その意味で、よくぞ通ったものだと感嘆する。
これも、事件後、そして前回判決後も長きに渡り、誹謗中傷繰り返し受けながらも問いかけを続けられた徳島県教組の粘り強さなしにはなかった。
この問いかけは、本来、悪質なデマによって踏みにじられた尊厳を取り戻すためのものである。被告らが言う「募金詐欺」がデマであった事は、前回裁判で明らかであるにも関わらず、未だに誹謗中傷を重ねる被告らに対する問いかけにはなったのではないだろうか。さらに、声明文の通り、これは、「在特会・チーム関西」というレイシズムに連なる人々への問いかけであり、ひいてはレイシズムを容認するこの社会の「空気」への問いかけに他ならない。
しかし、検察は、建造物不法侵入・威力業務妨害で起訴したが、本来あるべき名誉棄損が落とされてしまった。
今回、起訴された二人。特に元市会議員候補氏は、徳島県教組襲撃事件以降、2年以上に渡り刑事裁判で否定されたデマを基にした誹謗中傷をブログ上で延々と続けており、その、名誉を棄損する誹謗中傷の確固たる証拠がネット上で公開されているにもかかわらずだ。
元々、刑事事件において「名誉棄損」が取り上げられる事が非常に稀であったとしても、これで名誉棄損が問えないとなれば、いったい何があれば取り上げられるのだろうか。
筆者は、この現状を見るに、ヘイトクライムに対する現行法運用の限界を見せられた気になっている。

とまれ、様々な障害、妨害を乗り越えて問いかけを続けた徳島県教組に敬意を表します。お見事でした。