川東差別街宣裁判判決全文


昨日、6月25日、奈良地方裁判所において、「川東差別街宣裁判」の判決が言い渡された。
その判決文が入手できたので全文掲載する。なお、被告である川東氏がネット上で公開している事も述べておく。


事件のあらまし。「東村山市民新聞」の迷宮より
川東大了(在特会元副会長)・水平社博物館前差別街宣裁判
http://www2.atwiki.jp/kusanonemaze/pages/144.html




判決文

1 被告は, 原告に対し, 150万円及びこれに対する平成23年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は, これを20分し, その17を原告の負担とし, その余を被告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮執行することができる。


事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は, 原告に対し, 1000万円及びこれに対する平成23年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は, 被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は, 原告の負担とする。


第2 事案の概要
1 本訴請求
本訴請求は, 被告が, 原告の開設する博物館の前で、原告の名誉を毀損する言動などをして、 原告に慰謝料1000万円の損害を生じさせたと主張して、原告が被告に対し上記慰謝料及びこれに対する訴状送達の翌日から民法所定の利率による遅延損害金の支払を求めたものである。
2 判断の前提となる事実
以下の事実は, 争いのない事実, 頭著な事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって認めることができる事実である。
(1) 原告及び水平社博物館
原告は、部落問題及び水平社運動に関する調査研究を行うとともに、関係史料及び文化財を収集及び保存し、併せてこれらを一般に公開することにより、人権思想の普及と啓発に資することを目的として平成10年4月1日に設立許可を受けた財団法人水平社博物館が、平成24年4月1 日、名称を変更して移行した公益財団法人である。
財団法人水平社博物館は、平成10年5月、前記目的のため、奈良県御所市柏原に水平社歷史館を設立及び開館した。なお、水平社歷史館は, 平成11年4月1日、水平社博物館に名称を変更した。
(顕著な事実。甲第1、第11号証、弁論の全趣旨)
(2) 被告
被告は、「在日特権を許さない市民の会」(以下「在特会」という。)の会員であり, 執行役員, 関西地区担当副会長兼大阪支部長を務めている。 在特会は、在日韓国人朝鮮人の特別永住資格の廃止を主唱する団体である。
(争いのない事実, 弁論の全趣旨)
(3) 水平社博物館の展示
水平社博物館は, 部落問題及び水平社運動等に関する常設展示をするとともに、テーマを設定して特別展示及び企画展等を開催している。
水平社博物館は, 平成22年12月10日から平成23年3月27日までの間、企画展として「コリアと日本 一 韓国併合から100年」と題する企画展示をなした。
(争いのない事実, 甲第2、第4、第6、第12号証)
(4) 被告の言動
被告は、平成23年1月22日午後1時過ぎから, 水平社博物館前の道路上において、ハンドマイクを使用して、次のとおりの演説をした。 そして、被告は、上演説の状況を自己の動画サイトに投稿し、広く市民が視聴できる状態においている。
「なぜここでこうやってマイクを持って叫んでるかといいますと、この目の前にある穢多博物館ですか, 非人博物館ですか、水平社博物館ですか、なんかねえ、よく分からんこの博物館」「強制連行された女性の中には、慰安婦イコール性奴隷として軍隊に従属させられ、性的奉仕を強いられた人もいましたと、こういったことも書かれておりますねえ」「慰安婦イコール性奴隷と言っているんですよ。こいつらはバカタレ。文句あったら出てこい、穢多ども。 慰安婦。性奴隷。これねえ、すごい人権侵害ですよ。これ。性風俗産業ね。自分が性風俗産業で働くのが大好きだと、これが天職だと、喜んで働いている女性に対して人権侵害なんですよ、これ」「この水平社博物館、ド穢多どもはですねえ、慰安婦イコール性奴隷だと、こういったこと言ってるんですよ。文句あったら出てこいよ。穢多ども。ね、ここなんですか。ド穢多の発祥の地。なんかそういう聖地らしいですね。」「機多やら非人やらいうたら、大勢集まって糾弾集会やら昔やっとったん違うんですか。出てこい。穢多ども。何人か聞いとるやろ。穢多ども、ここは穢多しかいない。穢多の聖地やと聞いとるぞ。 出てこい、穢多ども、おまえらなあ、ほんまに日本中でなめたマネさらしやがって」「ここでそういうことやったら、なんか大勢人間がね、集まってきて囲まれて、なんか大変なことになるということをね、ちょっと事前に聞いてね。あまり、こう、平穏に街宣ができるとはちょっと思ってなかったのですけど、あまり何を言うか考えてこなかったんですけど」「いい加減出てきたらどうだ、穢多ども。ねえ、穢多、非人、非人。非人とは、人間じゃないと書くんですよ。おまえら人間なのかほんとうに」「穢多とは穢れが多いと書きます。穢れた、穢れた、卑しい連中。文句あったらねえ、いつでも来い」
(争いのない事実。甲第3号証, 弁論の全趣旨)


3 争点
(1) 被告の不法行為の成否
ア 原告
被告は, 原告に対し、穢多博物館。非人博物館と蔑称を投げ付けるとともに、その関係者らに対し公然と口頭及び拡声器を使用して「ドエツタども, 出てこい」などとの挑発的言動を意図的になした。 これは、前代未聞の差別事件であり、穢れ多き人々、人間外の人々が邪な目的を持って原告を設立し、原告が邪な社会的活動を行っている。そして、そのような邪な目的の下で「コリアと日本一韓国併合から100年」の企画展示をなしていると主張して、公然と事実を摘示し、基本的人権を普及し、啓発を旨とする原告の名誉を著しく毀損する言動を被告が行ったものである。しかも、被告は、上記言動の一部始終を自己の動画サイトに投稿し、全国の人々に流布させるべく試みている。その発言内容とともにその伝達方法からして、被告の行為は原告に対する悪質極まりない差別行為というべきである。
イ被告
否認する。穢多及び非人は蔑称ではなく、これを述べた被告が不当な差別をしているものではない。また、被告は挑発的な言動をしたことはない。被告は、原告が「コリアと日本一韓国併合から100年」の展示企画において誤った歴史認識を展示していることから、これを指摘したものにすぎない。
(2) 原告に生じた損害の額
ア 原告
原告は, 平成10年5月1日水平社歷史館を開館して以来、部落差別の撤廃、人権思想及び基本的人権の普及及び啓発に尽力し、日本国内外から既に25万人を超える人々が水平社博物館を参観し、 全国水平社発祥の地、日本の人権のふるさととして親しまれている。このような原告の名誉ある活動に対し、被告は、水平社博物館の前で、穢多博物館又は非人博物館などと蔑称を何回も投げ付けて、その名誉を著しく毀損し、あまつさえ、そのような差別行為をインターネット上で動画として全国に発信するなどの極めて重大な挑発行為を公然と仕掛けてきたものである。
原告は, 被告の上記言動により社会的及び精神的損害を被り、これに対する慰謝料は1000万円が相当である。
イ被告
知らない。


第3 当裁判所の判断
1 被告の不法行為の成否
前記第2の2(4)で判示したとおり、 被告は、原告が開設する水平社博物館前の道路上において、ハンドマイクを使用して、「穢多」及び「非人」などの文言を含む演説をし、上記演説の状況を自己の動画サイトに投稿し、広く市民が視聴できる状態においている。そして、上記文言が不当な差別用語であることは公知の事実であり、原告の設立目的及び活動状況、被告の言動の時期及び場所等に鑑みれば、被告の上記言動が原告に対する名誉毀損に当たると認めるのが相当である。
2 原告に生じた損害の額
前記1 で判示した被告の不法行為となる言動はその内容が原告の設立目的及び活動状況等を否定するものであり、しかも、その時期、場所及び方法等が原告に対する名誉毀損の程度を著しくしていることなどの事情に鑑みれば, 被告の不法行為によって原告に生じた有形、無形の損害は相当大きなものであるといわざるを得ず、これに対する慰謝料150万円が相当である。


第4 結論
以上によれば, 原告が被告に対し民法709条、710条に基づき損害1000万円及びこれに対する不法行為後の日である平成23年9月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は、損害150万円及びこれに対する平成23年9月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を, 仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
以上。



まず、主文の後で事件の経過と原告被告双方の主張が述べられているが、ともかく被告である川東氏の街宣内容が酷い。改めて読み返して見ると、これを差別的言質と言わずになんと表現すればいいのだろうか。
彼は、水平社博物館による「コリアと日本一韓国併合から100年」に対して抗議をしているつもりなのだろうが、そこで繰り出される、その抗議内容にまったく関係のない差別語の連発は、まさにヘイトクライムといっていいだろう。それ以外、何の意味があるのかわからない。
これは、判決文のキモである「第3 当裁判所の判断」において、当然のように差別語認定され、また、インターネットで流布・拡散させる事の悪質性をも含め、原告への名誉毀損とその金額の上乗せがはかられたものと推測される。
また、今回は、水平社博物館という特定できるものへの差別言質の認定ではあったが、これは今もネット上でお気楽に書き込まれる「差別語」へ対しての楔の意味をもつ判決になったのではないだろうか。
ネット上では「差別語」・ヘイトスピーチを発する人々が今や当たり前のように存在する。その言葉によって傷つき、沈黙効果を強いられる人々の存在を想像した事があるのだろうか。それは差別語だという指摘に対して真摯にとらえられる人々はいったいどれほどいるのだろうかと、日々、絶望感に捕らわれる人々の存在を無視する事は、そのお気楽に「差別語」を使用する人々の人としての尊厳、品位さえ自ら汚している事に気がついてほしい。
さらに、言いたくもないが、この判決で、その「差別語」を使用する事で、いつ自分が被告席に座らせられる局面が来るかもしれない事も想像してほしい。

もうひとつ、この判決文は被告側の主張を一顧だにされてないのがわかる。当然と言えば当然であるが、被告のネット上であるような荒唐無稽な主張が司法に通じるわけがない事もこれで証明されたと言える。
被告側第一準備書面
http://www.zaitokukai.info/modules/wordpress/index.php?p=368
被告第二準備書面
http://www.zaitokukai.info/modules/wordpress/index.php?p=399


ともかく、今回の裁判は原告である水平社博物館及び部落同盟の名誉が司法により認定され、一定守られたと評価できる。原告被告双方がこの時点で控訴されるかどうかわからないが、まずはご苦労様でしたと言いたい。

そして、この「川東差別街宣裁判」は「京都朝鮮学校嫌がらせ事件裁判」と同じ水平線上にあると言っていい。
学校裁判の被告の一人が、この裁判の被告である川東氏であり、彼らは同じくヘイトスピーチをもって、京都朝鮮学校へのヘイトクライムと言える事件を起こした。その意味では、今回の判決は、差別、ヘイトに対し、今の司法判断の基準を伺う目安にはなったという意味でも意義があると思える。



次回、京都朝鮮学校嫌がらせ裁判第13回口頭弁論は
日時:7月11日(水) 14時開廷/集合時間 13時
今回は、被告側証人尋問の予定。


【追記】

原告側である「奈良人権文化財団」からのこの判決に対する見解が入手できたので、これも全文掲載させて頂く。



原告の請求認容判決に対する見解


本日、奈良地方裁判所は、原告の請求を認め、被告の不当な差別街宣を違法であると認定した。
我々は、この判決が、正しく差別街宣の違法性を認めたことを高く評価する。
我々は、被告及び被告の属する団体が、本判決を真摯に受け止め、被差別部落出身者に対するもののみではなく、あらゆる差別を表明、助長、扇動するような不当な宣伝行為を直ちに中止するように求める。
我々は、不当な差別助長行為を繰り返す者らに対する糾弾を今後も継続することをここに表明する。
                               
2012年6月25日

公益財団法人 奈良人権文化財団(旧名称 財団法人水平社博物館)








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