学校側第一準備書面  4 

「学校側第一準備書面 3 」より継続。




3 原告の教育事業に対する支障について

(1)差別的攻撃が与える民族教育への影響
被告らが原告の事業に与えた妨害の本質は、単に、大音量による街宜行為によって物理的な支障を来した、といったものではない。被告らの言動は、学校で学ぶ児童らに対し、むき出しの民族的憎悪をぶつけるものであり、以下のとおり、児童らの民族的尊厳を培うという原告の事業目的を、根本から無にしてしまいかねないものであった。この点については、原告の無形損害の評価にあたって重視されなければならない。
言うまでもないことであるが、在日朝鮮人児童らが、自己に対する尊厳の気持ちを育て、科目の学習に集中できるようにするためには、心身両面において安全な学校環境の提供が必要不可欠である。差別意識に起因した人格攻撃に晒されない学校環境を提供しなければならない。朝鮮民族の言語・歴史・文化について何十、何百時間にも及ぶ授業を施し、ようやく得られた教育効果の蓄積――特に、在日朝鮮人児童の自尊感情、自己肯定感といった人格形成の根幹に関わる極めて重要な作用――も、本件のような悪意に満ちた差別的攻撃に晒されれば、一瞬で消失しかねないからである。
本件に関しては、大人であっても、自らの民族に向けられたこのようなむき出しの憎悪の表現を客観的に理解し、自分のなかで消化し、否定的な感情を排除して自尊心を保つのは容易ではなかったと考えられる。児童らは、民族的アイデンティティの形成途上にあり、その繊細な内面に対する影響と今後の人格形成過程への波及効果は計り知れない。特に、前述のとおり、教師は、児童ら沈)ルーツを教えるのみならず、日本社会からの理解や支持を得ることの重要性についても指導している。児童らは民族教育を通じて、日本人と仲良くすることの意味は、単に「近所付合い」という意味あいを超えて、歴史的存在である在日朝鮮人としてであるからこそ重要
であるとの認識・感覚を育むこととなることは、前述のとおりである。本件は、このように児童らが学校教育を通じて仲良くしようとしていた日本社会から学校・児童が攻撃された、という意味において、民族的アイデンティティの形成途上にある児童に矛盾と混乱の気持ちを招き、深い心の傷を食わせたことは疑いのない事実である。
そして、差別的攻撃の影響は、単にそれまでの教育効果が損なわれるだけでとどまらない。その後も、長期にわたって心理的影響は残存するものであり、児童らがこうした混乱や恐怖感を完全に克服できるまでの間、原告の最も重要な民族教育事業は妨害されつづけるものである。


(2)被告らの行為の特殊性
被告らの不法行為の内容は、在日朝鮮人に対する差別的・侮蔑的動機に基づき、児童らに対する身体・精神に対する攻撃が許容されることを公然と表現し、インターネットを通して広く差別を扇動して、今後の街宣行為への参加者・支持を広げていく、というものである。原告の事業(民族教育)に対する深刻な妨害の影響は、
      ・実力行使の示唆、
      ・YouTube(インターネット動画配信信サイト)等を利用した広範
       囲にわたる情報の拡散・流通、
      ・3回にも及ぶ反復性、
      ・告訴、仮処分決定等を無視する顕著な反規範性
といった被告らの行為の特殊性によって、何倍にも増幅される結果となった。
なお、1月及び3月に実施された街宣行為に関しては、先行する12月の暴力的な街宣という先行行為による侮蔑と威圧の効果を積極的に利用・補充して、これを強化し増幅させていることを看過してはならない。これは、被告中谷が1月14日街宣直前に参加者らの士気を鼓舞するために行った、以下の発言に端的に現れている。
     12月の4日、あの動画が配信されてからというものは、この活
     動の流れというものは、一段と加速したと思うんですよ。やっ
     ぱり、この勢いを消してはだめで 。更に更に加速して、一気
     に持って行けるように、寄り切れるように、わたしたち力を合
     して頑張っていこうじやないですか。
これに引き続き、被告西村修平も次のように12月4目の行為との連続性を強調し、実力行使を示唆して恐怖心をもたらす言動を行っている。
     西村;え−、間もなくみなさん、デモ隊出発しますけどね、50年ぶ
     りに我が国の領土で朝鮮人から取り出したんです。
(一同);そうだ、そうだ!
     西村;二度と、朝鮮人にですね、やりたい放題のことをやらさせない。
      (一同);そうだ、そうだ!
     西村;その記念すべき第一歩を、この場から出発するデモ行進に意義
     がある。(一同);そうだ、そうだ!
     西村;ね、われわれにっ、、、朝鮮人に警告する。日本人をなめるな!
      (一同);なめるな−!
西村;大和魂、ね。国難を前に撚糸を爆破する、精神。これが大和魂
この大和魂で、懊悩な日本人を侮蔑する、この朝鮮人をたたきだす!
 (一同);そうだ、そうだ!
西村;日本人をなめるなよ朝鮮人

このように街宣の首謀者が、12月4日の常軌を逸した暴力性を積極的に肯定し、新たな街宣を行うにあたって先行行為との連続性を強調し、差別的・侮辱的な街宣が繰り返され、その様子がインターネット上で配信され扇動が行われるというのであるから、児童ら及び学校関係者の心中には、極度の不安と恐怖心が再度喚起される結果となった。 
3月28目の街宣においても、同様に、先行する12月の暴力的街宣行為の積極的な支持が表明され、連続性が強調されていた。このため、各行為者の責任を検討するにあたり後続の街宣による無形損害を独立して評価する場合においても、先行の暴力的な行為によって植え付けられた児童らや学校職員の恐伸感や屈辱感を復活させているという側面を看過してはならない。
大人数を動員して、しかも、組識性を高めた差別扇動の街宣行為が積み重ねられていくことで、悪質な威圧的な表現の効果は、強度、持続性の両面において増幅されているところ、被告らの一部をはじめ、後続の街宣から参加した人々であっても、まさにこうした先行行為を利用した増幅効果を意図的に創り出している。従って、各街宣による無形損害は、12月、1月、3月のどの―つをとっても、十分に高額のものとすべきは明らかである。

(3)人種差別を動機とする反復的犯罪行為(ヘイトクライム)の強い影響力:ホール教授(Nathan Hall、ポーツマス大学)等による分析
ホール教授の研究によると、ヘイトクライムの特徴は、身体的暴力、威嚇、脅迫の継続及び被害、あるいは系統的な被害の繰り返しとされる。しかも、被害は犯罪の実行によって始まったり終わったりするのではない。
ヘルト・クライムの被害は一つの犯罪とだけではなく、多くの犯罪と結びつくからである。特定個人だけが被害を受けるのではなく、事件の発生による恐怖はその瞬間を越えて広がる(前田「ヘイト・クライム〜増悪犯罪が日本を壊す〜」三一書房労働組合・110頁におけるNathan HaII、Hate Crime、Willan Publishing、2005の引用)。
例えば、イギリスにおけるニューハム調査結果は、次の点を明らかにした。「一九八七年から八八年にかけてニューハムでは二つの通りに住む七つの家族に対して五三件の嫌がらせが発生した。言葉による嫌がらせ、卵を投げる、器物損壊、ドアをノックするなど。一つひとつは小さな事件であり、犯行者もそれぞれ個別に行なっている。しかし、これらが累積することで被害者にとっては重大な恐怖となる。ヘイト・クライムの被害は、単発事件の影響(としては把握しきれないので)…、過去にさかのぼって累積的に調査する必要がある…。」(前田110頁)

また、「ヘレク、コーガン、ギリスによる一九九七年のヘイト・クライム調査によると、被害者にはひじょうに長期にわたるPTSDが確認され、落胆、不安、怒りにとらわれがちである。通常犯罪なら二年程度の影響が、ヘイト・クライムでは五年以上継続する。…通常犯罪とヘイト・クライムとで例えば暴行の程度が同じであっても、被害者が受ける心身のダメージは異なる。そして、被害者個人だけではなく、…(侵害を受けた)コミュニテイ全体に対しても影響を与える。ヘイト・クライムは、コミュニティの他の構成員に対して<メッセージ>を送るのである。犯行者の犯罪動機が伝えられることによって、憎悪の対象とされた集団全体に恐怖を呼び覚ます。ボストンにおけるヘイト,クライムと通常犯罪に関するマクデビットらの研究によっても、被害者の心理には差異が確認される。ヘイト・クライムの方が後遺症が大きく、回復に時間を要する。将来の恐怖の大きさも、被害の繰り返しのためにずっと大きい。…人種差別は、その人種を極端に否定的にステレオタイプ化し、烙印を押す。このことは犯行者の動機
に明白に表れている。すべての被害者が否定的ステレオタイプを押しつけられる。」(前田110〜111頁)

本件においてもまさにこうしたヘイトクライムの特殊性が際だっており、3回もの反復とその後の被告らの行為によって、本件児童らの心理に与えた影響が極めて大きく、持続性の高いものとなっている点は看過してはならない。


(4)本件学校が教育事業を維持できていることの評価。
現在、本件学校においては、外見上は、以前とほとんど変わりなく授業や学校生活が営まれているように見えるかもしれないが、実際のところは、学校関係者、父母、卒業生、支援者ら数多くの人々の献身的な努力によって、かろうじて校内の平穏さが維持されているものに過ぎない。学校関係者は、本件を受けて子どもたちのために何ができるかを真剣に議論し、本件行為に対する怒りと悲しみを原動力にして、広く日本社会や国際社会に対して支援を呼びかけ、子どもたちに人々の応援を伝えられるように努力してきた。こうした努力の結果、学校や家庭においても子どもたちの安心と笑顔を取り戻すことに一定、成功してきたようである。
児童らの父母、本件学校や民族教育に関わる人々にとっては、どれだけの努力を要することになろうとも、これまでどおりこの学校事業を維持し通学を続ける以外には、選択肢がない状況に置かれた。つまり、児童らの民族性への攻撃行為が実際に行われた今、万が一、民族教育事業の後退がもたらされてしまうようなことになれば、それは児童らが受けた心の傷を回復させる場を喪失させたまま放置されることになる。それこそ将来にわたる人格形成に重大な影響を与えかねない。こうしたなか、例えば、転校などをしたところで、今回の攻撃で損なわれた民族的自尊感情の回復に関しては全く解決にならない。逆に、差別攻撃に屈したかのような印象を子どもに与えることになれば、子どもたちの恐怖心や世界観の形成への悪影響は計り知れない。保護者としては、我が子を思えば、被告らの攻撃に晒され続けるとしても本件学校を維持する、学校の教育環境を守って子どもたちに安心を与える、学校に対する厚い信頼が揺らいでいないことを行動で示す、学校がどれだけ大切かを身をもって示す、民族教育に対する確信はこの程度の差別攻撃で揺らぐようなものではないことを子どもたちに伝える、といった必死の努力をする以外に、選択肢はなかったものである。
わが子らの将来が懸かった一大事に直面し、多数の父母らが血眼になって、学校維持のために、それぞれができる範囲で献身的な努力をしてきた。
このように、学校事業と民族教育を維持するために多数の人々の努力の結集を要していることは、裏を返せば、学校が受けた無形損害の大きさを示す事情として評価されなければならない。(被害者の努力によって減収を免れた場合の損害の算出につき、大阪地判H10.12.1交31-6-1820、京都地判H12.12.5自保ジ1392-7など。)
もっとも、上記各街宣から長期間を経過した今日においてさえ、児童らは、不意に、事件の際の恐怖心を具体的な言葉や態度で示すことがあり、幼い心中に刻まれた傷の深さは計り知れない。刑事的に訴追されている今日に至ってもなお、被告らから紺罪、反省の表明は一切なく、むしろ、本件街宣を積極的評価するような言論が垂れ流され、過激な街宣行動への支持者を募る活動が継続されていることも、児童らの恐怖心の持続に寄与しているものである。

4 児童ら、父母ら、教職員、法人構成員の精神的苦痛の評価
通常、法人の損害と、この法人に関与する個人の損害は別のものとして整理され、関係者個人の精神的苦痛に関する損害賠償請求を、法人が代位的に請求することはできない。もっとも、本件学校は、在日朝鮮人の歩んできた特殊な歴史的経緯及び本件のような民族学校の占める重要性からして、多数の関係者の人格の自己実現に、極めて重要な役割を果たしている。
そこで、こうした特殊性を反映して、原告の「無形損害」を評価する一事情として、当該法人に関係する児童らや父母の精神的苦痛の総量が積極的に考慮されるべきである。
上述のとおり、「法人構成員の精神的苦痛の団体化」といった概念(澤井234頁)も提唱されているところである。


第4 弁護士費用について

1 はじめに

本件における弁護士費用は、事案の特殊性・困雌性等の諸般の事情に鑑み、損害額の10パーセントではなく、少なくとも25パーセントとすべきである。

2 あるべき弁護士費用の認定基準
(1)不法行為による損害賠償請求訴訟において、一般的に、認容額の1割を弁護士費用として認める傾向があるが、この「認容額の1割」という扱いは何ら根拠のあるものではなく、弁護士費用の額は、諸般の事情を考慮し、事件ごとに個別具体的に判断されなければならない。

(2)すなわち、不法行為による損害賠償請求訴訟において弁護士費用の賠償を認めた最高裁判所昭和44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁は、
「相手方の故意又は過失によって自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴えを提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。」
と判示し、不法行為と相当因果関係に立つ弁護士費用について賠償を認め、その後の判例も同判決を踏襲している。
このように、判例は、客観的基準として、事件の難易、請求額、認容額の三本の柱を示し、これらを基本としながら、諸般の事情を斟酌して賠償されるべき弁護士費用を定めるとしているのであって、認容額の1割とする実務上の取扱いは、判例の挙げる要素のうち1点のみ取上げているにすぎないのである。
高割合の弁護士費用を認めた例として、大阪地判平成11年6月9日は、月刊誌に少年の犯罪行為を記事とし、その実名、顔写真を掲載したことが違法であるとして、同前の発行元等に、名誉毀損による損害賠償を請求した事案につき、金200万円の損害を認定した上で、諸般の事情を考慮し、弁護士費用を損害額の25パーセントである金50万円と認定している。

(3)本件は、原告側の関係者が多数で聴き取りに膨大な労力を要すること、被告らが不特定多数で匿名性が高く、その特定が極めて困難で調査に膨大な労力を要したこと、数次にわたる街宣について警備態勢の助言を求められ、あるいは、証拠保全代理人も出向いていること、告訴、2回の仮処分、2回の間接強制及び本訴の対応など数次にわたる法的対応を迫られたこと、裁判書を受け取らない相手方への付郵便送達のために居住地調査を余儀なくされたこと、弁護士への業務妨害の危険も高く、複数人の対応を常時要していたこと、法的論点が多岐にわたること、マスメディアの関心が商い事件で代理人による対応に労力を要したこと、などの特殊事情がある。
よって、本件における弁護士費用は、事案の特殊性・困難性及び被告らの応訴態度等諸般の事情を十分斟酌し、損害額の25パーセントとするのが相当である。

3 小括
以上のとおり、本件においては、事案の特殊性・困難性に鑑み、少なくとも損害額の25パーセントとすべきである。

第5 まとめ
  以上のとおり、原告の損害は極めて甚大であるから、請求の趣旨に掲げた
 金額の損害賠償を認容されたい。








以上。学校側第一準備書面を4回にわたって掲載してきた。
今回の裁判において核心となるこの第一準備書面は、その前半部分において民族教育が国際的に護られた権利を主張し、民族教育の歴史からはじまり、何故、民族教育が必要であるのかが述べられ朝鮮学校の実情についても述べられている。さらに、この書面においては一貫してヘイトクライムによる犯罪性が指摘されている。
刑事裁判と同じく、被告らの行った無知蒙昧な蛮行だけが裁かれているのであれば、事実確認及び被害状況の説明で事足りると思われる。
では、何故この民族教育の意義と権利、ヘイトクライムの犯罪性が述べられるのか?それはとりもなおさず、この書面こそが、民族教育を取り巻く環境、つまり被告らの蛮行を生み出したものに対しての問いかけを司法に求めているからだ。これこそが、この裁判における核心的なものであり、学校側弁護団が挑むハードルに他ならない。
なお、この朝鮮学校いやがらせ事件は「人種差別事件」であるとする学校側第二準備書面も、今後、ヘイトクライムに関連する事件があるたびにクローズアップされるであろう重要な書面であるので、なんとかして掲載したいと筆者は考えている。
ブレノ氏はまたやってくれないかな〜。



さて、5月24日(火)は朝鮮学校いやがらせ事件第5回口頭弁論があります。
10時より傍聴券抽選が始まります。また抽選が外れても裁判終了後、学校側支援報告集会が行われますので、支援者はこぞってGO!








本日のグルメレポート
京都は壬生、四条通り沿いにある(日本写真印刷近く)。坦々麺専門の「坦々」。
甘辛さのバランスもよく美味。レタスチャーハンと一緒に食すべし。美味しゅうございました。